(第1回)イントロダクション —「新 行政用語の常識」はじまります!(吉田利宏)

新 行政用語の常識――用語から学ぶ行政手法| 2026.06.30
新 法令用語の常識』『新 法令解釈・作成の常識』の著者・吉田利宏(元衆議院法制局参事)が、現職の衆議院法制局職員である笠松珠美と共に執筆する新連載。行政に関わる人たちに向けて、行政手法(行政目的を実現するための手法)を使いこなすために、キーワードとなる行政用語を通じて、行政手法をその前提となる法制度と併せて理解することを提案。行政用語に関する知識が政策立案や法令の理解に欠かせない新常識になることを期待して「新 行政用語の常識」と題した連載がスタートします。

「新 行政用語の常識」という名の連載がはじまります。「行政手法」をその前提となる法制度と併せて理解すれば、政策立案にも、法令の理解にも役立ちます!

行政手法の知識が鍵になる!

目的を実現するための手法はさまざまです。旅人にマントを脱がせるためには、北風を吹かせるより、暖かい太陽が顔をのぞかせる方が有用でしたが、もしかしたら「ダサいマント」と若者にひとこと言わせる方がより有効だったかもしれません。

行政目的を実現するための手法のことを「行政手法」といいます。旅人のマントを脱がせる方法がいくつかあるように、ある行政目的を実現するための行政手法もひとつとは限りません。いくつかある行政手法のなかでより効果的な方法を選ぶことが行政においては求められます。行政手法に関する知識は公務員にとって欠かすことができないのです。また、法を学ぶ者にとっても、行政の目的と手法との結びつきをイメージできるようになる利点があります。

分権改革後、行政手法についての知識は、地方公務員も含めてすべての公務員に求められるものとなりました。鈴木庸夫監修・山本博史著『行政手法ガイドブック—政策法務のツールを学ぼう』(第一法規、2008年)ほか、行政手法に関する優れた書籍や論文が公になっています。

かくいう私も、衆議院法制局の職員時代、法律案のなかに珍しい行政手法を見つけると、切り抜いてノートに貼り付けていました。このノートは難しい法律案の依頼があった際の「お守り」となっていました。

行政手法の使い方を学ぶ

近頃、「宿泊税」を導入する自治体が非常に増えています。宿泊税は法律に税目があるわけではなく、自治体が条例で定めた独自の税です。これを「法定外税」といいます。法定外税の制度は地方税法に根拠があります。

法定外税には、「法定外普通税」と「法定外目的税」があります。法定外普通税は一般経費に充てられる税であり、法定外目的税は特定の目的や事業に充てられる税をいいます。たとえば、自治体の財政を少しでも豊かにして、さまざまな目的に使えるお金を増やしたいと法定外普通税を導入する自治体もあるでしょうし、その地域を訪れる観光客を増やしたいと「おもてなしの街づくり」のために法定外目的税を導入する自治体もあることでしょう。

宿泊料金に上乗せする税(宿泊税)を法定外税として導入するとしても、目的次第によって法定外普通税にするか、法定外目的税にするか異なってくるのです。

行政用語からみる行政手法

行政用語という言葉は、行政に関する用語を総称するものとして使われます。「法定外税」という用語は税法上の行政用語であると同時に、それを選択した自治体にとっては行政手法であるといえます。さらにいえば、宿泊税を導入した自治体は、法定外税を宿泊税という行政手法で導入したわけです。この連載では行政手法をその前提となる法制度と結びつけて説明しようと考えています。

連載名を「行政手法の常識」としてもよかったのですが、キーワードとなる行政用語を通じて、前提となる法制度から説明を試みようと考え「行政用語の常識」としました。さらに、こうした行政用語に関する知識が政策立案や法令の理解に欠かせない新常識になることを期待して、「新 行政用語の常識」というタイトルにしています。

執筆者と連載予定

本連載の執筆は2名が担当します。一人は『新 法令用語の常識[第2版]』、『新 法令解釈・作成の常識』の著者である吉田利宏です。そして、もう一人は、現職の衆議院法制局職員の笠松珠美です。法制の世界での新しい動きも連載に反映してくれるでしょう。数か月にわたり、毎月中旬に「Web日本評論」でお目にかかります。行政用語の世界のほんの一部にすぎませんが、当面、以下のような内容の連載を予定しています。しばらくのお付き合いをお願いいたします。

第1回 イントロダクション「新 行政用語の常識」はじまります!
第2回 時を味方につける① 法令をいつから施行するか
第3回 時を味方につける② 段階的に制度を動かす
第4回 時を味方につける③ 新制度にスムーズに移行する
第5回 時を味方につける④ 期間を区切って成果を上げる
第6回 政策で誘導する① お金でくすぐる①(補助金)
第7回 政策で誘導する② お金でくすぐる②(税を使ったインセンティブ・ディスインセンティブ手法)
第8回 政策で誘導する③ 心に訴える(「○○の日」、表彰・顕彰制度による誘導)
第9回 政策で誘導する④ 国民(住民)を巻き込む(パブコメの利用)


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吉田利宏(よしだ・としひろ)
1963年生まれ。1987年衆議院法制局入局。以後15年にわたり議員立法や修正案の作成に参画。主な著書に、『新 法令用語の常識〔第2版〕』『新 法令解釈・作成の常識〔第2版〕』(日本評論社)、『法実務からみた行政法』『法令読解心得帖』(共著、日本評論社)、『政策立案者のための条例づくり入門』(共著、学陽書房)、『つかむ・つかえる行政法〔第2版〕』『法学のお作法』(法律文化社)、『元法制局キャリアが教える 法律を読む技術・学ぶ技術(第4版)』『同 法律を読むセンスの磨き方・伸ばし方』『同 民法を読む技術・学ぶ技術』(ダイヤモンド社)などがある。

笠松 珠美(かさまつ・たまみ)
衆議院法制局法制企画調整部総務課長。2000年に衆議院法制局に入局し、現在まで、憲法、国会、選挙、内閣、安全保障、地方自治、法務、環境、農林水産、厚生労働など、幅広い分野の議員立法・修正案の立案等を担当。『条文の読み方(第2版)』(有斐閣、2021年)の共同執筆者の一人。なお、本稿は筆者の私見であり、所属する組織の見解ではありません。