(第89回)元最高裁判事へのインタビュー(伊藤剛志)
企業法務、ファイナンス、事業再生、知的財産、危機管理、税務、通商、労働、IT……。さまざまな分野の最前線で活躍する気鋭の弁護士たちが贈る、法律実務家のための研究論文紹介。気鋭の弁護士7名が交代で担当します。(毎月中旬更新予定)
小特集「宮崎裕子・宇賀克也元最高裁判事に聞く」
法律時報98巻2号(2026年2月号)50頁以下
「研究論文」とは少し異なるかもしれないが、今回は本特集を取り上げたい。本特集の中心は、最高裁判所第三小法廷の判事としてご活躍された宮崎裕子先生・宇賀克也先生に対して、巽智彦・東京大学准教授(行政法)、上田健介・上智大学教授(憲法)、金塚彩乃・弁護士/フランス共和国弁護士の3名が行ったインタビューである。
宮崎先生は日本のtax lawyerとして著名な弁護士であり、本インタビューの中で宮崎先生が言及されているレポ取引に対する日本の源泉徴収課税の可否が論点となった訴訟において、筆者も弁護団の末席に加えていただき、納税者訴訟代理人として間近でご指導をいただいた。また、宇賀先生は行政法研究者であるとともに東京大学で長く教鞭をとられ、筆者は東京大学法学部在学中に宇賀先生の行政法第1部から第3部の講義を履修した。最高裁判事の中でも、両先生は存じ上げている先生であったことから、本特集にも大いに興味をひかれた。
さて、最高裁判所は最終的な法律解釈や憲法適合性を判断する日本における司法の最高機関であり、長官1名と14名の裁判官により構成されているが、その最高裁判所における実際の事件処理の様相をうかがい知れる機会は多くはない。最高裁判所は、3つの小法廷に各5人の裁判官が配置され、最高裁判所に上訴される事件はいずれかの小法廷に配点され審理がされる。宮崎先生及び宇賀先生は、2019年から2021年にかけて、最高裁判所第三小法廷にともに在籍されていた。両先生は、既にご自身の最高裁判事としての経験をインタビューや講演といった形で発信されているが、両先生にそろってお話を聞いたようなものは珍しいのではないか。本特集の企画趣旨にも述べられているが、両先生は多くの個別意見をお二人で連携して、あるいは、共同で執筆されており、両先生にそろってインタビューをした本特集は、当時の第三小法廷における事件処理のほか、宮崎先生や宇賀先生が関与された個別意見がどのように形成されていったのか、そして両先生がその個別意見にどのようなお考え・思いを託したのか、といった点を鮮やかに浮かび上がらせている。
本インタビューでは、タキゲン事件、泉佐野市ふるさと納税事件、原爆症要医療性事件、辺野古サンゴ訴訟事件、夫婦同氏姓訴訟事件などにおける個別意見(補足意見・反対意見)について述べられており、いずれの議論も興味深いものの、租税法を取り扱う弁護士という立場の筆者からは、タキゲン事件、泉佐野市ふるさと納税事件を取り上げたい。
タキゲン事件(最三判令和2年3月24日集民263号63頁)は、取引相場のない株式の価額の算定について、原審が財産評価基本通達の文理解釈にこだわって結論を出したのに対して、最高裁は、譲渡所得に対する課税の場面においては、相続税や贈与税の課税の場面を前提とする評価通達の定めをそのまま用いることはできず、所得税法の趣旨に即し、それに応じた取扱いがされるべきであるとして破棄差戻しをした事件であり、両先生が、それぞれ、補足意見を書いている。両先生とも、行政規則である通達と法規命令を混同するかのような原審の判示、所得税法に係る解釈通達に相続税法に関する解釈通達を借用するという国民へのわかりにくさ、という点が補足意見を執筆する動機となったようである。特に宮崎先生の「私は弁護士時代に税務訴訟、税務紛争事件を手がけた経験の中で、課税庁が通達というものを法律と同じレベルの規範であるかのように考えているのではないかと思わされる場面を目にすることがあって、・・・せっかくの機会なのでしっかり警告を発しておきたいと思った」とのご発言内容は、タキゲン事件の宮崎補足意見が宮崎先生のtax lawyerとしてのご経験に根差したものであることを示しており、(筆者を含め)同様の経験をすることの多い租税実務家にとって、タキゲン事件の宮崎補足意見は、課税庁と解釈通達の射程を議論する際の重要な糸口になっているように思う。
また、泉佐野市ふるさと納税事件(最三判令和2年6月30日民集74巻4号800頁)は、ふるさと納税の特例控除を受けられる地方公共団体を総務大臣が指定するための要件を定める総務省告示が、地方税法の規定の委任の範囲を逸脱しており、違法無効とされたものである。宮崎先生は、当該事件に補足意見を書いた動機として「このような事件が起きてしまった最も大きな原因は、当初の立法の詰めの甘さにあり、被告席に座らなければならないのは、実質的には立法府ないし立法担当者であると思ったというところにありました」と発言されている。さらに加えて、「租税法は完璧にできているものばかりではなく、いろいろなところに落とし穴があるのが現実」であり、「納税者はそういう落とし穴みたいなものがある法律の適用を受けると、そのとばっちりを全部受けるということになりかね」ず、当該事件においてはそのとばっちりを受けたのは地方公共団体であったが、「不完全で詰めの甘い立法の結果として、とばっちりを受ける人がいるということが問題なので、そのようなことがなるべく起きないように、立法者にはよく考えて立法してほしいということをいっておきたかった」ともご説明をされている。租税法令の複雑性が増す中、立法府ないし立法担当者がどこまで「詰めた」立法をすることができるか、といった問題はあるのだろうが、腑に落ちるところである。
本論考を読むには
・法律時報98巻2号 (2026年2月)
・TKCローライブラリー(PDFを提供しています。)
◆この記事に関するご意見・ご感想をぜひ、お問い合わせフォームよりお寄せください。
この連載をすべて見る
伊藤剛志(いとう・つよし)1999年東京大学法学部第一類卒業。2000年西村総合法律事務所(現:西村あさひ法律事務所・外国法共同事業)入所。2007年ニューヨーク大学ロースクール卒業(LL.M.)。2016年より2019年まで東京大学大学院法学政治学研究科・客員准教授。主な業務分野は、税務、資産運用・金融取引。主な著書として、『デジタルエコノミーと課税のフロンティア』(共編著、有斐閣、2020年)、『BEPSとグローバル経済活動』(共編著、有斐閣、2017年)、『ファイナンス法大全(上)・(下)〔全訂版〕』(共著、商事法務、2017年)等。















