【ディスカッション】経済学は、競争政策と法執行にどう活かせるのか?(経済セミナー2026年2+3月号)

特集から(経済セミナー)| 2026.01.28
経済セミナー』の特集に収録されている対談・鼎談の一部をご紹介します.

(奇数月下旬更新予定)

経済学の知見は、競争当局のさまざまな実務にどう活用されうるのだろうか?
どんなデータがあれば、現場により有用な知見を生み出せるのだろうか?
実務と研究がともに進化していく道を探る。

1 はじめに

青木 このディスカッションの司会を務める、公正取引委員会 (公取) の青木玲子です。ここまで、川合慶さんからは独創的なアイデアで、データのどんなところに着目し、どのように談合を検知するかについての方法をご自身たちの研究に基づいて解説したうえで、それらの手法で直近の日本のデータを分析した結果も紹介いただきました。

公取事務総局審査局長の品川武さんからは、独占禁止法 (独禁法) 実務の基本的な知識から、実際の調査・立証プロセス、その中で経済学やデータ分析の知見がどう活用できるのか、あるいはそこでの課題は何かについてご議論いただきました。

実証産業組織論の専門家である若森直樹さんからは、産業組織論の実証研究の視点から、これまでのカルテル・談合に関するさまざまな研究の流れの中に川合さんたちの研究を位置づけて整理いただきました。川合さんたちの研究の革新的な部分がどこにあるのか、改めてよく理解できたと思います。

経済理論の研究者である山本裕一さんからは、主に繰り返しゲームの理論ではカルテル・談合をどう分析するかを基礎的なところから解説いただいたうえで、理論における複数均衡の問題が実証分析にどのように影響するかについても議論をいただきました。

このディスカッションでは、ここまでの内容をふまえ、大きく以下の 2 つのテーマで改めて議論を掘り下げていきたいと思います。

(1)政策・執行に対して、経済学の知見はどう活かせるのか?

(2)実務・研究でのデ-タの利用可能性の現状と、望まれるデータとは?

2 政策・執行に対して、経済学の知はどう活かせるのか?

2.1 当局もデータから談合のパターンを把握している?

青木 それでは、1 つ目のテーマから議論していきたいと思います。川合さんや若森さんのお話では、カルテル・談合が起こりうるデータを分析することでそれらの有無を検知するとともに、カルテル・談合がどのように行われているか、そのパターンを見出すことができるということでした。そうだすると、そこから逆算して談合を検知したところからカルテル・談合のやり方を推測し、そこから証拠につながるような情報を得ることができるような気もしました。そのようなことは、実務ではありうるのでしょうか。

品川 われわれ当局も、実務で経済分析を行っています。たとえば、ある入札物件について談合が疑われるような何らかの情報があるけれども、それだけでは決め手に欠けるという場合に、統計分析を行って正確に状況を把握したうえでもやはり談合の疑いが強いということになれば、それをきっかけに調査を始める、といったケースは実際に出てきています。

先ほども述べた通り (品川記事、p.20 参照)、談合には多様なパターンがあるのですが、実際に経済分析を行うとそうしたパターンが見えてきて、談合のルールもある程度わかってくる場合があります。経済分析・統計分析をこのように運用できれば、当局としては調査がしやすくなると思います。

2.2 アルゴリズム・カルテルは取り締まりの対象になるのか?

山本 私からも質問よろしいでしょうか。最近、繰り返しゲームの分野の一部で流行っているのですが、たとえば 2 つの企業が、利潤最大化をするだけの単純な価格付け AI を同時に導入したとすると、それが勝手にカルテル価格の水準に収斂してしまう可能性があるということを指摘する研究がいくつか出てきています。

そこでの問題提起は、少なくとも AI を導入する段階では企業間のコミュニケーションはまったく存在しないし、AI を設計する際にカルテル的な価格付けをさせるような意図はないのだけれども、しかしそのような AIに学習および価格付けを任せた結果、あたかもカルテルが行われているかのような価格付けが AI によって行われてしまう可能性が理論的には存在する、というものです。そういうものは違法であるとして、規制の対象とすべきなのでしょうか。

品川 ご指摘の点はまさに現在、世界中の競争当局が頭を悩ませながらも真剣に議論している問題です。AI に任せると、それ以降人間がまったく関与していなくてもカルテルと同じことが起こりえます。その場合に法的に介入しなくてよいのか。これがここでの論点なのですが、AI を導入する事業者は、導入することでどのような結果が導かれるかを検討したうえで導入するはずです。自社の価格決定を、どのようなアルゴリズムでどんな結果を導くかもわからない AI に丸投げする事業者がいるとは、普通は考えられません。そのため、AI を導入した結果として自社の価格がどうなるかについて、企業は事前にそのAI を提供する事業者とのやりとりを通じて予測しているはずです。そうすると、AI が競合他社の価格をふまえて従来よりも高い価格を付けるのではないかということを、AIを導入する過程で各社が認識しているはずです。ここに、事業者間でコミュニケーションが行われていることの根拠が見いだせるのではないか、といった議論もありうると思います。

現状、「アルゴリズム・カルテル」と呼ばれるものには、ハブになる業者が、そのアルゴリズムはどういうもので、どのようにして競合他社のデータを収集し、その結果どのような価格設定が行われるかを参加者に説明している例が多く見られます。海外の競争当局が取り組んでいる事件は、そこにコミュニケーションがあるという根拠を見出しているのではないかと思われるものもあります。しかし、完全に AI に丸投げして自動化された場合に、どこまでコミュニケーションがあることを認定できるかは、今後の課題だと思っています。

続きは『経済セミナー』(2026年2+3月号通巻748号)で御覧ください

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