「刺戟」の時代における「静穏」の確保—新聞やテレビは熟考の機会を提供できるのか?(水谷瑛嗣郎)(特集:選挙から、政党と政治参加を考える)
◆この記事は「法学セミナー」848号(2026年2・3月号)に掲載されているものです。◆
特集:選挙から、政党と政治参加を考える
選挙についての素朴な疑問への応答を契機に、
近時の選挙の状況も参考にしながら、政党という中間団体の意義と限界、
および市民の政治参加の可能性について考える。—編集部
1 政治家はTikTokでダンスを踊る
私たちの社会において、情報発信・摂取のためのツールとしてソーシャルメディアが重要な位置づけを占めるようになって久しい。友人同士のコミュニケーション、商品やサービスのマーケティング、趣味のための情報収集……いまやソーシャルメディアは、私たちの日常的な情報流通のインフラストラクチャーといっても過言ではない。それは、民主政システムにおける一大イベントである「選挙」にとっても同様である。
そんな中、インドネシアでは、政治家(選挙候補者)がショート動画でダンスを踊っている。これは本稿のテーマとなっている現代の選挙におけるメディア利用の実態に関する興味深く、そして象徴的な事象だろう。2024年に行われた同国の大統領選において、正副大統領候補のうちプラボウォ・スビアント氏とギブラン・ラカブミン・ラカ氏のペアが勝利を収めたが、その背景にTikTokを用いたブランディング戦略があったとされている。TikTokはインドネシアでも若い世代を中心に多数のユーザーを抱えているが、調査によれば、選挙期間中、TikTokでは先のプラボウォ氏とギブラン氏に関する動画が圧倒的な再生数とダウンロード数を誇っていたという。調査対象のうち、選挙期間中に最も再生数が伸びていたのは、「軽妙な音楽をバックにプラボウォが踊り、ギブランがそれを拍手して盛り上げようとしている動画」だった1)。
政治を語るうえで欠かすことのできないニュースを得る過程の変化にも目を配る必要があるだろう。アメリカに関する調査結果であるが、いまやアメリカの成人の約5人に1人はTikTokでニュースを得るようになっており、特に18~29歳の若い世代の場合、その割合は43%に達している2)。さらに、30歳未満の成人の37%が、ニュース系インフルエンサーから定期的にニュースを摂取している。と同時に、これらニュース系インフルエンサーの77%は、報道機関とかかわった経験がない者たちによって構成されている3)。
脚注
| 1. | ↑ | 岡本正明=八木暢昭=久納源太「(2024年インドネシアの選挙)第5回 ティックトックの政治化は民主主義を空洞化するのか?」IDEスクエア(2024年7月)(〔最終アクセス日2025年12月7日、以下すべて同じ〕)。 |
| 2. | ↑ | Emily Tomasik and Katerina Eva Matsa,1 in 5 Americans now regularly get news on TikTok, up sharply from 2020, Pew Research Center, Sep. 25, 2025. |
| 3. | ↑ | Galen Stocking, et al., America’s News Influencers, Pew Research Center, Nov. 18, 2024. |





