法と経済学の現在と未来—総論(飯田高)(特集:法と経済学の可能性)
特集から(法学セミナー)| 2025.11.12
◆この記事は「法学セミナー」847号(2025年12月・2026年1月号)に掲載されているものです。◆
特集:法と経済学の可能性
進展が著しい「法と経済学」。
近年では、公法・民事法・刑事法分野にも影響を及ぼしている。
経済学的な手法をどのように法的思考に活かすか、
その活用の術を知り、法と経済学の裾野の広がりを感じてみよう。—編集部
1 本特集の趣旨
「法と経済学」は、進展が著しい分野のひとつである。法と経済学の研究を扱う海外のジャーナルは複数あるが、そこに掲載されている諸論文のタイトルを見るだけでも、対象とする問題や使われている手法がきわめて多様であることがわかる1)。
海外において多方面への応用が見られるのと同様、日本でも法と経済学はさまざまな方向に発展してきている。経済との距離がもともと近い分野(会社法、経済法、租税法、知的財産法など)だけではなく、民法や刑法といった基本的な法分野に対しても、程度の違いはあれ一定の影響を及ぼしている2)。
法学内部での専門分化が進んでいる現在の状況で、各法分野で展開されてきた経済分析の全体像を把握するのはなかなか難しい。全体像どころか、輪郭を知ることすら容易ではない。新たな法的問題は絶えず生じているうえに、経済分析のありようも徐々に変わってきているからである。
本特集の目的は、法と経済学の裾野の広がりを伝えることと、経済学的な考え方を法的問題の検討にどのように活かせるかを紹介することにある。法と経済学との関係では従来あまり取り上げられてこなかったと思われる分野・領域に焦点を当てているところにも特徴があると言えるかもしれない。
本稿では、法と経済学の現在地および将来の展望について、総論的・概括的に述べておくことにしたい。
脚注
| 1. | ↑ | 法と経済学の代表的なジャーナルとしては、Journal of Law and Economics、Journal of Legal Studies、Journal of Law, Economics, and Organization が挙げられる。法と経済学の研究がさかんなのはアメリカ合衆国だが、現在ではヨーロッパの国々でも多くの研究が見られる。ヨーロッパ法と経済学会が発行する Review of Law and Economics も、この分野の主要なジャーナルとなっている。法と経済学の広がりを手っ取り早く知るのに適した文献として、Francesco Parisi(ed.) The Oxford Handbook of Law and Economics,Volume 1-3, Oxford University Press(2017)や、Alain Marciano and Giovanni Battista Ramello(eds.), Encyclopedia of Law and Economics, Volume 1-3, Springer(2019)を挙げておく。 |
| 2. | ↑ | 有斐閣ストゥディアのシリーズとして得津晶=西内康人『法と経済学』(有斐閣、2025年)が刊行されたのは大きな出来事である。 |





