(第24回・終)人工配偶子作製のゆくえ:他にもある作製術と受精卵作製容認への動き

ヒトの性の生物学(麻生一枝)| 2025.08.18
LGBTQ,少子高齢化,男女共同参画など,議論の的となっている社会テーマの多くは,ヒトの性と関係しています.「自分がどのようにして (how),自分になったのか」を知ることは,性的マイノリティの自己の確立に大きく影響し,また,年齢に伴う卵子や精子の老化は,私たちがどのようにキャリア形成とプライベートな生活 (結婚や家庭をもつなど) を両立していくかを考える上で,避けては通れない生物学的事実です.しかし現実には,様々な議論が,生物学抜きで,あるいは生物学の誤った解釈の下におこなわれており,責任ある立場の人々の誤った言説もあとを絶ちません.
このシリーズでは,私たちの人生に密接に関係する「ヒトの性に関する生物学的知見」を紹介していきます.

(毎月中旬更新予定)

前回は,体の細胞から作られた iPS 細胞 (人工多能性幹細胞) を原料に,精子や卵子を作る,という研究が進められていることをお話しした[1],[2].2023 年の時点で,すでにマウスでは,オスの体細胞に由来する iPS 細胞から精子だけでなく卵子が作られ,子の誕生につながっている (図 1).メスの体細胞に由来する iPS 細胞からも卵子が作られ,子が生まれている.ヒトではまだ,受精可能な精子や卵子の作製には至っていない.だが,その途中段階の細胞の作製には成功している.そして,昨年 2024 年 5 月,京都大学の研究グループが,これらヒトの卵子や精子のもととなる細胞を大量に作る技術を開発したと発表した[3]

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麻生一枝 サイエンスライター,成蹊大学非常勤講師. お茶の水女子大学理学部数学科卒業,オレゴン州立大学動物学科卒業,プエルトリコ大学海洋生物学修士,ハワイ大学動物学Ph.D. (研究テーマは魚類の性分化・性転換).「健全な科学研究における統計学や実験デザインの重要性」「ジェンダー研究における生物学の重要性」という 2 つのテーマで活動してきている.著訳書に『科学でわかる男と女になるしくみ』(SBクリエイティブ),『生命科学の実験デザイン』(共訳,名古屋大学出版会),『科学者をまどわす魔法の数字,インパクト・ファクターの正体---誤用の悪影響と賢い使い方を考える』(日本評論社),『データを疑う力』(東京図書出版) など.