人口減少社会に法はどう向きあうべきか?(吉田克己)(特集:人口減少社会にどう向きあうか)
◆この記事は「法学セミナー」844号(2025年6・7月号)に掲載されているものです。◆
特集:人口減少社会にどう向きあうか
超高齢化や少子化、地方の過疎、経済の縮減、年金負担……。
人口の減少が加速する現在、様々な問題が「危機」として叫ばれている。
これまでの増加・拡大の志向から、
価値の転換をはかる必要があるのかもしれない。
本特集では、人口減少社会に対して、いま、法ができることはなにか、
どのように向きあっていくべきなのかを検討する。—編集部
1 何が急激な人口減少をもたらしているのか?
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(1) 急激な人口減少
日本における少子高齢化現象は指摘されて久しいが、人口減少社会の到来が真剣に問題視されるようになったのは、せいぜい10年ほど前にすぎない。
しかし、その後の事態の進展とりわけ出生数減少のスピードには、目が眩むほどである。
(a) 日本の出生数のピークは、第1次ベビーブーム時の1949年における約270万人であった。出生数は、その後、第2次ベビーブーム時(1970年代初め)に若干の持ち直しはあったものの、ほぼ一貫して減り続けている。2016年には初めて100万人を割り、その後は減少のスピードを速め、2023年には72万7,000人になり、2024年には68万5,000人となる見込みである(厚労省が2025年2月27日に発表した数値は72万1,000人であるが、ここには、日本で生まれた外国人も含まれている)。まさに激減である。ある計算によれば、今後もこの「激減ペース」が続くと、100年後の2120年には、出生数はわずか8,000人ほどになる(前掲*1文献⑩27頁)。
(b) 人口減少問題を論じる際によく引かれる合計特殊出生率は、2005年に1.26という過去最低水準を記録し、世論にショックを与えた。その後、若干持ち直して1.4台の前半を維持していたが、近時再び低下しつつあり、2021年1.30、2022年1.26と過去最低水準に並び、2023年には1.20と過去最低水準を更新した。
出生率を見る際に注意すべきは、出生率が多少回復したとしても、出生数が当然に回復するわけではないことである。母集団を構成する母親となるべき女性の数が大きく減少しているからである。母集団縮小の下で出生数を維持し回復することは、容易な課題ではない。
(c) 日本は、超高齢社会の到来から多死社会を迎えている。これと出生数の減少が相まって、日本の総人口は、減少局面に入っている。2008年の1億2,808万4千人がピークであり、その後、年に20万人程度の減少が続いた後、2016年には年間の減少数が30万人に達し、総人口は2017年初めの時点で1億2,558万4,000人となった。現在の総人口は、2025年2月1日の概算値で1億2,354万人であり、前年同月比で57万人の減少となっている(総務省統計局)。人口減少は、今後加速度的に進行することが予想される。ある予測によれば、100年後の2120年には、日本の人口は、2,871万人になる(前掲*1文献⑩33頁)。約8割に及ぶ減少である。人口減少は、日本という国自体の存続が危ぶまれるというレベルで進行する可能性が大きい。
脚注
1. | ↑ | 人口減少社会の現実と問題点を論じる文献は多い。代表的なものだけを挙げておく。①増田寛也編著『地方消滅—東京一極集中が招く人口急減』(中公新書、2014年)、②増田寛也=冨山和彦『地方消滅—創生戦略篇』(中公新書、2015年)、③河合雅司『未来の年表』(講談社現代新書、2017年)、④同『未来の年表2』(講談社現代新書、2018年)。①は、896の消滅可能都市を示した通称「増田レポート」(2024年5月8日。『中央公論』誌に公表された)を踏まえたもので、大きな社会的反響を呼び起こした文献である。しかし、「選択と集中」ということで、地方中核都市に投資を集中するという政策提言には、批判も多い。説得力に富む代表的な批判として、⑤山下祐介『地方消滅の罠—「増田レポート」と人口減少社会の正体』(ちくま新書、2014年)がある。また、⑥小田切徳美『農山村は消滅しない』(岩波新書、2014年)も参照。③④は、人口減少の実態と問題点、その対策(「戦略的に縮む」)を説得的に説く文献である。これに対する批判として、⑦高橋洋一『未来年表—人口減少危機論のウソ』(扶桑社新書、2018年)があるが、この批判の視野は狭く、説得力に乏しいように思われる。「人口急減社会」で何が起きるのかに関しては、⑧NHKスぺシャル取材班『縮小ニッポンの衝撃』(講談社現代新書、2017年)がリアルな実態を伝えている。①②の路線の最新版として、⑨人口戦略会議編著『地方消滅2—加速化する少子化と新たな人口ビジョン』(中公新書、2024年)、③④の路線の最新版として、⑩河合雅司『縮んで勝つ—人口減少日本の活路』(小学館新書、2024年)がある。⑪毛受敏浩『限界国家—人口減少で日本が迫られる最終選択』(朝日新書、2017年)は、外国人受入れを中心とした対策を説く。⑫坂本貴志『ほんとうの日本経済—データが示す「これから起こること」』(講談社現代新書、2024年)は、労働市場の動向を中心に、これからの日本経済の展望を描く。これらの文献は、以下で参照する場合には、文献①、文献②……と表記する。 |