『眠れぬ夜の確率論』(著:原 啓介 )

一冊散策| 2020.08.03
新刊を中心に,小社刊行の本を毎月いくつか紹介します.

まえがき


確率論は非常に奇妙な,特別な分野だと私は思っています.もちろんこれは,たまたま,確率論を専攻した私の身贔屓でしょうが,純粋数学の問題であると同時に,物理学を始め自然科学の諸分野や,経済学,哲学,倫理学,果ては処世術にまで関係するのは,例外的だと言えましょう.

本書では,このさまざまな領域に関わる確率の姿を,できる限り,精一杯,幅広く取り上げました.かなり深い数学的知識を仮定した箇所もありますが,全体としては,数式などを読み飛ばしても,十分に楽しんでいただけると思います.

本書の内容は,月刊誌『数学セミナー』(日本評論社) に 2018 年 4 月号より一年に渡って連載したものをベースにしています.具体的には,第 4 部を除く 12 の章がこの 12 か月分で,第 4 部の三つの章が新たに書き下ろした追加分です.

その他,連載時には隠されていた部構成を露にしたこと,各章にエピグラフを追加したこと,また,一冊の本の体裁にするために各所の文章を若干調整したことが,連載からの差分です.

本書の構成は,連載を依頼していただき,執筆の計画を立てたときのものです.連載時には毎回読み切りが前提だったため,その構成は表に出しませんでした.また分量の関係で,連載時には統計に関係する内容 (本書第 4 部) をまるごと捨てました.つまり,この単行本化にあたって,当初の構想を明確にすると同時に,その全体を復活させたわけです.

この本で初めて「眠れぬ夜の確率論」に触れる方も,また連載時に読んでくださっていた方も,ともに楽しんでいただければ幸甚です.

原啓介 2020 年,小石川にて

目次

  • 第1部 原理
    • 第1章 どうやら確からしい話—ある高校生、近江の君、ラプラス、その他の物
    • 第2章 あなたの人生の期待値—心の代数、千両みかん、ホームズ最後の事件、その他の物語
    • 第3章 確率・長さおよび面積—キャロルの三角形、並行宇宙、確率変数の謎、その他の物語
  • 第2部 意味
    • 第4章 天才フォン・ミーゼス閣下の蹉跌—謎のコレクティヴ、ポワソンのごまかし、ミッシングリンク、その他の物語
    • 第5章 でたらめという名の規則—反規則性、コルモゴロフ再び、ポーの少年と緋牡丹のお竜、その他の物語
    • 第6章 主観確率のあやしくない世界—DL2号機事件、一貫性、ダッチブック論法、その他の物語
  • 第3部 数理
    • 第7章 余は如何にして確率論者となりし乎—梯子酒、秘密の通路、5と7の理由、その他の物語
    • 第8章 エントロピーの夢—ピンチョン、シャノン、ボルツマン、その他の物語
    • 第9章 負の確率、のようなもの—魔法のコイン、正負の打ち消し、超検索、その他の物語
  • 第4部 推理
    • 第10章 統計のこころ—死人を数える、シンプソンのパラドクス、真のブショネ率、その他の物語
    • 第11章 逆向きの推理—再びコイン投げ、統計的に有意、科学の危機、その他の物語
    • 第12章 モンテカルロで行こう—実録「踊る人形」、モンテカルロとメトロポリス、でたらめの効用、その他の物語
  • 第5部 人間
    • 第13章 人間原理の奇妙なロジック—絶妙な調整、人間孵卵器、人類皆殺し計画、その他の物語
    • 第14章 記憶喪失と自由意志—シンデレラの罠、眠れる美女、新旧ニューカム問題、その他の物語
    • 第15章 確率のディスクール・断章—不運と幸運、恋と運命、夢と成功、その他の物語

書誌情報など