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海外論文サーベイ(経済セミナー)| 2025.11.28
 雑誌『経済セミナー』の "海外論文Survey" からの転載です.

(奇数月下旬更新予定)

Cai, W., Prat, A. and Yu, J.(2025) “Measuring Organizational Capital,” SSRN Working Paper, 4174523.
$\def\t#1{\text{#1}}\def\dfrac#1#2{\displaystyle\frac{#1}{#2}}$

北川梨津

はじめに

同一の産業・規模・資本装備など観測可能な属性で条件づけても、企業の間には生産性にかなりのばらつきがあることが知られている (Syverson 2011)。データ上では同じように見える企業の間に生産性の差が生じるということは、データからは見えない異質性が企業間に存在しているということだ。見えない異質性としてどんなものが考えられるのか。その 1 つに、「組織資本 (organizational capital)」が挙げられる。この概念は約 40 年前に Prescott and Visscher (1980) によって初めて提唱された。最近では、Dessein and Prat (2022) が経営者と組織資本の相互作用を理論的に分析し、企業間の生産性の差が、組織資本を通じて経営者の行動や能力によって規定されることを示している。組織資本とは、組織の生産性を規定する多様な要素のうち、資本のように蓄積・減耗するが、物理的な形を持たない無形の要素の総称である。具体例としては、企業文化、その企業でしか使えないノウハウ (企業特殊的人的資本)、あるいは長期的に形成された企業と従業員の関係性 (関係的契約)、マネジメント・プラクティス (経営管理上の望ましい実践や施策の総称) などが挙げられる。これらの例からもわかるように、組織資本は、通常のデータでは観察されにくいものの、有形資本と同様に時間をかけて蓄積・減耗し、生産性を左右するさまざまな要素を包括的に捉える概念である。

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