(第5回)その行動は、何を“伝えて”いるのか?:“行動”の背景にある、ご本人の切実な声

#小さな調整が大きな変化を:発達障害の方々にとって「悪くない暮らし」のために(佐々木康栄)| 2025.08.26
発達障害のある方やそのご家族が安心して地域で生活できる、そんな「あたりまえの日常」を支えるために、私たちには何ができるでしょうか。本連載では、私の臨床経験をもとに、誰もがその人らしく暮らせるためのあり方を模索していきたいと思います。正解はないかもしれませんが、一人ひとりができる小さなことが、ときに大きな支えとなります。私たちができる「小さな調整」を一緒に考えていきましょう。なお、本連載で紹介するエピソードは、個人情報保護や守秘義務の観点から、特定の個人を識別できないように配慮し、事実関係を損なわない範囲で一部修正を加えています。

(偶数月上旬更新予定)

「一つの行動が収まったと思ったら、今度は別の行動が始まった……」

支援の現場で、私たちはときに、まるで“モグラ叩き”のような、終わりなきループに迷い込むことがあります。良かれと思って時間と情熱を注いだ工夫が、なぜか空回りする。期待と落胆を繰り返し、ときに周囲のエネルギーがすり減っていくことも経験します。そのループの中で、私たちは「どうしてわかってくれないんだ」という焦りや、無力感に包まれていきます。

ここで一つ大切なデータを紹介します。2019年度の「厚生労働科学研究費補助金 障害者政策総合研究事業 発達障害の原因、疫学に関する情報のデータベース構築のための研究」によれば、成人期の自閉症スペクトラム(ASD)の方々の QOL(生活の質)に影響するのは、IQ や現在の ASD 特性の濃淡ではなく、「小児期のネガティブな体験」であったと示されています。

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佐々木康栄(ささき・こうえい)
公認心理師/臨床心理士/精神保健福祉士
知的障害や成人の自閉症の方の生活支援、療育センターでの勤務を経て、現在は発達障害の方々のサポートを専門とするよこはま発達グループにて、医療・療育・相談・啓発活動などに従事。人材育成のための講演、全国の障害福祉機関や保育園/幼稚園へのコンサルテーションも担っている。TEACCHプログラム研究会東北支部の代表のほか、デザインやアートの力を活用し、障害のある方々の多様な形での社会参加を目指す株式会社クロス・カンパニーのアドバイザーも担っている。著書には『場面別気になる子の保育サポートアイデアBOOK』(単著、中央法規出版、2024年)などがある。