(第20回)日本で最初に翻訳された西洋古典文学作品:Ad rivum eundem lupus et agnus venerant/同じ川の流れに狼と子羊がやって来ていた
格言といえばラテン語, ラテン語といえば格言.
Ad rivum eundem lupus et agnus venerant
アド リーウム エウンデム ルプス エト アグヌス ウェーネルント
(同じ川の流れに狼と子羊がやって来ていた)
明治以降の西洋文学の翻訳と京大出版会「西洋古典叢書」
わが国において, 西洋の近代文学の数多くの作品が, 明治時代以来の近代化の一環として, 日本語に翻訳されてきたことはよく知られています. それと時を同じくして, 西洋の古典文学の諸作品も, 次々と翻訳によって紹介されはじめてきました. それから100年以上たった現在, 日本語に翻訳して出版すればそれなりにセールスを期待できそうなメジャーな西洋古典作品はすべて翻訳されてしまったかのようです.
その結果,「こんなものを日本語に翻訳して誰が読むのだろうか?」と思えてしまうような文学・哲学・歴史の作品しかもう残っていないというのが現状ではありますが, それら決して「売れそうもない」諸作品も含め, 古代ギリシア・ローマが後世に遺した古典作品の全体をことごとく体系的に翻訳しようという野心的な出版計画が, わが国には存在します. 1997年に刊行が開始された, 京都大学学術出版会の「西洋古典叢書」です. 今なお日本人の西洋古典研究者たちの多くは, こうした記念碑的な計画の完成のために, 競うようにして自分たちの翻訳書を出版しているのですが, これは日本が世界に誇れる文化事業のひとつであると思われます.
イソップは古代ギリシア人
冒頭に「明治時代以来の近代化の一環として」と書きましたが, 本当のことを言うと, 西洋古典文学作品の日本語への翻訳は, 明治時代よりはるか以前の時代に始まっていました. 数ある西洋古典文学作品の中でも, 最初に日本語に翻訳されたのは, アイソーポス(イソップ)の『寓話集』でした. このことを知らない人は案外多いのではないでしょうか.
英語の発音に倣って「イソップ」あるいは「イソップ童話」と呼ばれることが多いので, そもそも, 「太陽と北風」,「アリとキリギリス」,「ウサギとカメ」,「キツネとブドウ(酸っぱい葡萄)」等, あまりにも有名なこれらのエピソードを伝えたこの寓話作家が, 正真正銘の古代ギリシア人であり, これらのエピソードはもともとすべて古代ギリシア語で書かれていたという歴史的な事実も, 日本人の間で意識されることはあまりないのではないかと思われます. そうなのです, アイソーポス(イソップ)の『寓話集』は西洋古典文学なのです.
信州大学人文学部教授。専門は西洋古典学、古代ギリシャ語、ラテン語。
東京大学・青山学院大学非常勤講師。早稲田大学卒業、東京大学修士、フランス国立リモージュ大学博士。
古代ギリシア演劇、特に前5世紀の喜劇詩人アリストパネースに関心を持っています。また、ラテン語の文学言語としての発生と発展の歴史にも関心があり、ヨーロッパ文学の起源を、古代ローマを経て、ホメーロスまで遡って研究しています。著書に、『ラテン語名句小辞典:珠玉の名言名句で味わうラテン語の世界』(研究社、2010年)、『ギリシア喜劇全集 第1巻、第4巻、第8巻、別巻(共著)』(岩波書店、2008-11年)など。













