『判例から考える社会保障法』(編:菊池馨実、常森裕介)

一冊散策| 2025.07.14
新刊を中心に,小社刊行の本を毎月いくつか紹介します.

 

 

はしがき

本書は、社会保障法領域の関連判例・裁判例を題材として、論点ごとに判例等の論理・動向を明らかにしながら、社会保障法を学ぶことをねらいとしたテキストである。

定価:税込 3,300円(本体価格 3,000円)

社会保障法は、実定法科目の中では比較的歴史の浅い分野であるが、それでも少なくない数の体系書・教科書が刊行されている。なかでも最近、共著のテキストが次々と出版され、多くの学生が学ぶ六法科目などと比較してマーケットが相対的に小さいとみられる社会保障法の領域は、すでに飽和状態といっても過言ではないように思われる。

こうした動向を鑑みて、本書は、法学部の演習(ゼミ)等での利用を想定し、新たなスタイルのテキストを目指したものである。その際の「お手本」となったのが、本書と同じ日本評論社刊の岡田正則ほか編『判例から考える行政救済法』(初版2014年、第2版2019年)であった。

そこに至る経緯は、編者の一人である菊池が在外研究を終えて帰国した直後の2005(平成17)年10月、同僚の岡田正則教授とともに東京社会保障判例検討会を立ち上げたことに遡る。2001(平成13)年早稲田大学に赴任した後、東京社会保障法研究会を立ち上げたものの、判例研究は季刊誌『社会保障研究』(従前は『季刊社会保障研究』、国立社会保障・人口問題研究所刊)の下での研究会に委ね、棲み分けを図ったため、判例研究の機会の少なさに物足りなさを感じていたところ、行政法学者の中でも社会保障法への造詣が深い岡田教授がお付き合いくださるというので、以来19年以上にわたって、8月を除く毎月第3金曜の夜、検討会を続けている。授業の一環としても位置付けていることから、早稲田大学大学院法学研究科・同法務研究科で学んだ研究者や実務法曹が、岡田教授の下で行政法的観点もふまえた社会保障法研究の研鑽を積むことができたのは、大変貴重であった。判例検討会には、早稲田大学関係者だけでなく、研究者等に広く参加を呼びかけ、一緒に学び合う場を提供してきた。判例・裁判例を基盤とした本書のスタイルは、こうした長年の積み重ねの延長線上にあり、共著者として執筆をお願いした方々も、共に学び合ってきた仲間である。そうした関係性と相互信頼を前提として、内容や文章表現等にまで相当踏み込んで、執筆者と編者が忌憚ない意見交換等を積み重ねることができたと自負している。

先に述べたように、本書の編纂にあたって、先達となったのが『判例から考える行政救済法』である。構成としては、各章のテーマの後に事例を示し、そこに組み込まれた「問い」を立て、それらの「問い」に関連した制度説明や関連判例・裁判例の解説を行った後、章の末尾に「問い」に対する学びをコンパクトにまとめ、事例への回答例を示すという流れにしてある。学ぶにあたってのキーワードや取り上げる判例・裁判例については、本論に入る前にまとめて示すことにした。社会保障法では論点ごとに判例法理が確立しているわけでは必ずしもなく、下級審判決を取り上げる頻度が相対的に高くならざるを得ない。論点提示型の構成ではあるものの、社会保障法の総論・各論にわたる幅広い領域を網羅し、関連する制度説明を行い、「問い」への回答例まで示してあるため、初学者用の社会保障法のテキストとして自学自習にも活用できよう。他方、判例・裁判例を基礎とした課題設定は、多様な議論の素材となり得るものであり、先に述べた法学部での演習(ゼミ)等での使用にとどまらず、法科大学院の講義等にも活用し得ると思われる。

本書の着想は、『判例から考える行政救済法(第2版)』刊行後の2020(令和2年)年であるから、約5年が経過したことになる。親身になって相談に乗り、出版社を紹介してくださり、同書編纂の経験をふまえた助言を折にふれいただいた岡田正則先生に感謝申し上げる。共編者の常森裕介先生には、公(校)務に追われ取りまとめ役として十分機能しない菊池に代わって、各著者との応答や企画の取りまとめ、編集者との打ち合わせなどの相当部分を担っていただいた。もちろん先に述べたように、各章の内容は、かなり踏み込んで執筆者との意見交換等を積み重ねたものであり、編者がその責任の一端を負うことはいうまでもない。

出版事情の厳しいなか、本書の企画を通してくださった後、長くお待たせしてしまったが、刊行に至るまで様々にご尽力いただいた日本評論社の武田彩氏と同社の串崎浩氏に深甚なる感謝の意を表したい。

2025年1月
編者を代表して
菊池馨実

1 社会保障制度における生存権の意義(常森裕介)※一部抜粋


目次

はしがき 菊池馨実
凡例

第1部 総論

1 社会保障制度における生存権の意義……常森裕介

2 社会保障制度と国籍……菊池馨実

3 ライフスタイルの多様化と社会保障制度……常森裕介

4 社会保険における連帯と強制加入・強制徴収の正当性……菊池馨実・常森裕介

5 被保険者資格の認定と保険料の徴収……川久保寛

6 社会保障制度における給付の調整……川久保寛

7 年金の給付水準と年金額の改定……菊池馨実

 

第2部 各論

8 障害年金における障害等級認定と所得保障の必要性……常森裕介

9 遺族年金と配偶者性……常森裕介

10 労災保険法における業務上外認定……小西啓文

11 雇用保険制度における「失業」……林健太郎

12 公的医療保険制度①(保険診療の仕組み)……浅野公貴

13 公的医療保険制度②(保険診療の範囲)……浅野公貴

14 公的医療保険制度③(医療供給体制)……菊池馨実

15 介護サービスと介護保険……川久保寛

16 保育を受ける権利と市町村の役割……古畑 淳

17 障害福祉サービスにおける介護ニーズの評価……福島 豪

18 社会福祉サービスにおける契約と規制……宮尾亮甫

19 被虐待児の保護と措置制度の意義……宮尾亮甫

20 最低生活保障における生活保護の意義と申請権……池谷秀登

21 生活保護制度における補足性の原理①(収入・資産)……木村康之

22 生活保護制度における補足性の原理②(稼働能力)……木村康之

23 生活保護制度におけるケースワークと指導・指示および助言……池谷秀登

24 生活保護制度における基準決定と判断過程審査……常森裕介

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