『プレイセラピー:関係性の営み[原著第4版]』(著:ゲリー・L・ランドレス/監訳:山中康裕/訳者代表:江城望)

一冊散策| 2025.06.18
新刊を中心に,小社刊行の本を毎月いくつか紹介します.

 

 

訳者あとがき

本書は、ノーステキサス大学のゲリー・ランドレスによる Play Therapy: The Art of the Relationship 第4版の全訳です。原著第2版(2002年:日本語版2007年)、第3版(2012年:日本語版2014年)に引き続き、このたび新たに、第4版の日本語版を上梓する機会に恵まれました。

序にて著者が説明している通り、本版には三つの新たな章が加えられ、子どもが所属、所有している文化(第6章)や、沈黙などの意味がないように見えること(第13章)といった潜在的ゆえに今までは見落とされがちであったトピックを俎上にあげるとともに、プレイセラピーの訓練について前版から章を独立させ、体系立った視点を示すことで(第8章)、読み手にみずからの訓練を見直す機会を提供しています。さらには短期集中的プレイセラピー(第18章)、および厳格な方法論のもとで行われた子ども中心プレイセラピー(CCPT)研究のサマリー(第19章)が書き直され、CCPTがいかにその適用の裾野を広げてきたかが示されています。前版から引き継がれたプレイセラピーのエッセンスを伝える各章も相当に書き直され、説明が加えられている部分もあれば、より洗練された表現へと昇華されている部分もあります。そこからは、CCPTに関する著者の知見と経験が円熟と刷新を繰り返している様だけでなく、それらをかみ砕き、読者が自然に受け止め、読み進められるような形で示そうとする著者の尽力が伝わってきます。本書を読めば、常に著者から語りかけられ、頭だけでなく心で感じ、考えるよう促されるような体験が喚起されるのではないかと思います。

また、第3版から第4版までの間になされたであろう、プレイセラピーを学び、普及に努める実践家、研究者との交流や、何よりもプレイセラピーに取り組む子どもたちとの生きた交流が本書の端々から伝わってきます。親がプレイセラピーのエッセンスを習得し、子どもに実践する「子どもと親の関係性セラピー(CPRT)」についても随所でその意義や効果が述べられているのが、本版の特徴といえます。

著者が伝えようとしているエッセンスとは、徹底して子ども中心であること、つまり子どもがそのときどのような気持ちでいるのかを常に見極めながら、子どもの内発的な表現を促していくことだといえます。そして、同時に、子ども中心であるということが、セラピストの自己理解とつながっているということも強調されています。それは、子どもの感情や体験を探索しながら、かつ自分自身の中に生じてくる感情や体験にも目を向け、セッションのその瞬間に起こっている子どもとセラピストの関係性に常に心開かれているというセラピストの在り方そのものへの言及でもあります。

そのような意味で、本書は私たちが取り組んできた子どもとの関わりを問い直させ、みずからの関わり、営みを自覚させ、さまざまな感情や発想が刺激され、かつ自身の営みを再編成させていく力のあるものといえるでしょう。本書はプレイセラピーの初心者のみならず、熟練者の営みにもまた資するものであることと思います。

本版は、原著第3版(『新版 プレイセラピー』)の訳者の多くが再集結して翻訳に取り組みました。もとは、京都大学Pdie研究会(小児科臨床の研究グループ)に所属し、今はさまざまな現場で臨床や教育に携わっている面々です。心理療法の実践経験や、これまで翻訳を通じて著者のパッションに触れてきた経験が何らかの形で翻訳に反映されているのではないかと思います。

また、本書の完成には多くの方々のご協力をいただきました。山中康裕先生には監訳と序文執筆の労をお取りいただきました。また、小川裕美子先生には第3版以降のプレイセラピーの趨勢と発展を踏まえた豊かな序文をいただきました。心から感謝と敬意を表します。また、日本評論社の木谷陽平氏には、腰を据えて翻訳に取り組む環境を整えていただいただけでなく、細部まで目の行き届いた編集をしていただきました。その他、さまざまな形で翻訳作業を支えていただいたすべての方に心より感謝申し上げます。

2025年2月
訳者代表 江城 望

目次

日本の読者に向けて/原著第4版 序/原著第4版 謝辞
原著第4版への監訳者序文 ……山中康裕
刊行に寄せて ……小川裕美子

第1章 私、ゲリー・ランドレスについて

第2章 遊びの意味
遊びの機能/子どもは遊びを通して伝える/治療プロセスにおける遊び/象徴的な遊び/プレイセラピーのプロセスにおける段階/適応的な子どもと適応的でない子どもの遊び

第3章 プレイセラピーの歴史と発展
精神分析的プレイセラピー/解放療法/関係療法/非指示的/子ども中心プレイセラピー/小学校でのプレイセラピー/プレイセラピー協会/プレイセラピーセンター/大学での訓練/フィリアルセラピー/大人のプレイセラピー

第4章 子どもたちとは
子どもたちと関わるための信条/子どもたちには回復力がある/ポップコーンのような子どもたちもいれば糖蜜のような子どもたちもいる

第5章 子ども中心プレイセラピー
人格理論/パーソナリティと行動についての子ども中心の考え方/子ども中心プレイセラピーの鍵概念/適応と不適応/成長に向かうためのセラピーの条件/心理療法的な関わり/子ども中心プレイセラピーの目的/子どもたちがプレイセラピーにおいて学ぶこと

第6章 文化に対して感性をもつこと
子ども中心プレイセラピーと文化への感性/搭、にいること狽ニいうアプローチの文化に対する考え方/子どもと親の関係性セラピーと文化への感性/文化的に多様な人々に関する子ども中心プレイセラピーの研究

第7章 プレイセラピスト
違いを生み出す/カレブ:私にとって最もドラマチックなプレイセラピーの経験/共にいること/パーソナリティの特徴/セラピストの自己理解/セラピストの自己受容/プレイセラピストであること/ライアン:プレイセラピーの中で死にゆく子ども

第8章 スーパーヴィジョンとプレイセラピーのトレーニング
スーパーヴィジョンを受けながらの実践は自己洞察を促す/推奨されるトレーニングプログラム

第9章 プレイセラピーのパートナーとしての親
背景についての情報/親にもセラピーが必要か/プレイセラピーのプロセスにおけるパートナーとしての親/親にプレイセラピーを説明すること/分離に向けて親が準備すること/親面接と会話の記録/プレイセラピーにおける倫理的問題と法的問題/精神科への紹介
第10章 プレイルームとプレイ道具
プレイルームの場所/プレイルームの大きさ/プレイルームの特色/プレイセラピーのためのその他の設定/おもちゃやプレイ道具の選定に関する理論的根拠/おもちゃの種類/トートバッグ・プレイルーム/プレイルームにお勧めのおもちゃと道具/特別に考慮されるべきこと/学校でのプレイセラピープログラムを説明するのにお勧めの呼び方

第11章 関係性の始まり:子どもの時間
子どもとの関係の原則/関わりの目標/子どもと触れ合うこと/待合室での最初の出会い/プレイルームにおいて、関わりを築いていくこと/子どもの目から見たプレイセラピーの関係/子どもたちの質問テクニック/マジックミラーと記録についての説明/セッション中に記録をとること/各セッションを終える準備/最初のプレイセラピーセッションに対するセラピストたちの応答/関わりの基本的な次元

第12章 促進的な応答の特徴
感受性豊かな理解:共にいること/思いやりのある受容/治療的な応答の特徴/頼りがちなダレルのケース/責任を戻す目的/促進的ではない応答の典型例/シンディ 操ろうとする子ども

第13章 意味がないように見えるときに意味を発見する
プレイセラピーの沈黙には意味がある/プレイセラピーの中で沈黙に応答すること/プレイセラピーセッションの記録:沈黙の始まり/無意味に見えるできごとは、無意味ではない/プレイセラピーの中で感情的なブロックを発見すること

第14章 治療的な制限設定
制限設定の基本的なガイドライン/いつ、制限を提示するか/治療的な制限設定についての理論的根拠/治療的な制限設定の手続き/治療的な制限設定のプロセスにおけるそれぞれのステップ/制限が破られたときは/制限設定の際にためらいがちであること/状況に応じた制限/制限設定に対する駆け出しのプレイセラピストたちの反応

第15章 典型的な問題とその対応
子どもが話さなかったら/子どもがおもちゃや食べ物をプレイルームに持ち込みたがったら/子どもがほめられようとし続けたら/子どもに変な話し方だと言われたら/子どもが愛情の表現を求めてきたら/子どもがハグしたりセラピストの膝の上に座ったりしたがったら/子どもがおもちゃを盗もうとしたら/子どもがプレイルームから出るのを拒んだら/もし、セラピストが思いがけず予約を守れなかったら

第16章 プレイセラピーの諸問題
守秘/子どもの遊びへの参加/プレイセラピーで子どもから贈り物を受け取ること/セッションの最後に子どもにご褒美を与えること、もしくは終結のときに記念品を与えること/子どもに片づけるように求めること/子どもたちにプレイセラピーを受ける理由を伝えること/プレイルームに友だちを連れてくること/親やきょうだいをプレイルームに招き入れること

第17章 治療的なプロセスと終結の決定
セッション内での治療的な動きを見つけること/変化の次元/終結の意味/終結を決定する際の参考点/関係の終わりへの手続き/最終セッションに対する子どもたちの反応/早すぎる終結

第18章 短期集中的プレイセラピー
集中的子ども中心プレイセラピー/集中的な子ども中心プレイセラピーについての研究/短期子ども中心プレイセラピー/短期子どもと親の関係性セラピー/まとめ

第19章 子ども中心プレイセラピーに関する研究のエヴィデンス
子ども中心プレイセラピーに関する研究の状況/子ども中心プレイセラピーに関するメタ分析および体系的なレビュー/子ども中心プレイセラピー独自の成果研究/文化に即した子ども中心プレイセラピー研究/子ども中心プレイセラピー研究の長所と限界/子ども中心プレイセラピー研究のリソース/結語

訳者あとがき/事項索引/人名索引

書誌情報