ビジネスと人権(久保田安彦)

法律時評(法律時報)| 2024.03.27
世間を賑わす出来事、社会問題を毎月1本切り出して、法の視点から論じる時事評論。 それがこの「法律時評」です。
ぜひ法の世界のダイナミズムを感じてください。
月刊「法律時報」より、毎月掲載。

(毎月下旬更新予定)

◆この記事は「法律時報」96巻4号(2024年4月号)に掲載されているものです。◆

1 国連指導原則と日本政府ガイドライン

定価:税込 2,090円(本体価格 1,900円)

2022年に日本政府から「責任あるサプライチェーン等における人権尊重のためのガイドライン」(以下「日本政府ガイドライン」という)が公表されたのを契機として、日本企業の間にも「ビジネスと人権」のための取組みが急速に拡がってきている。周知のように、この日本政府ガイドラインは、2011年に国連人権理事会で承認された「ビジネスと人権に関する指導原則」(以下「国連指導原則」という)に基づくものである。

国連指導原則は、国家の人権保護義務、企業の人権尊重責任、人権侵害に対する救済へのアクセスという三本柱で構成されている。このうち、企業の人権尊重責任につき、具体的な取組みとして国連指導原則が挙げているのが、①人権尊重責任を果たすことをコミットする企業方針の策定、②人権デュー・ディリジェンス(以下「人権DD」という)の体制整備と実施、③人権侵害に対する救済のアクセスの整備である。そして、日本政府ガイドラインは、日本で事業活動を行う企業の実態に即して、これらの取組みのあり方を解説し、企業の理解の深化を助けることにより、人権尊重の取組みを促すことを目的として策定されたものである。

なお、人権DDとは、企業活動を通じた人権への負の影響を特定し、予防し、軽減し、対処方法を説明するために実施する一連の行為をいう。国連指導原則等で求められる人権DDは、企業それ自体の事業活動を通じて惹起・助長されるおそれのある人権への負の影響だけでなく、企業のバリューチェーンにおける人権への負の影響、すなわち、グループ会社やサプライチェーンなどの取引関係(直接的な取引関係に限られない)により生じる人権の負の影響や、企業活動・製品・サービスに直接関連し得る人権への負の影響も対象となる点に特徴がある。

以下では、これらの「ビジネスと人権」に関するソフトローを取り上げ、会社法学の観点から若干の検討を加えることにしたい。

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