(第5回)古代ローマ人とギリシア語 Et tū, Brūte!/ブルートゥス, お前もか!

竪琴にロバ:ラテン語格言のお話(野津寛)| 2024.03.18
格言といえばラテン語, ラテン語といえば格言. みなさんはどんなラテン語の格言をご存知ですか? 日本語でとなえられる格言も, 実はもともとラテン語の格言だったかもしれません. みなさんは, 知らず知らずに日本語で, ラテン語を話しているかもしれません! 実は, ラテン語は至るところに存在します. ラテン語について書かれた本も, ラテン語を学びたいという人も, いま, どんどん増えています. このコラムでは, ラテン語格言やモットーにまつわるお話を通じて, ラテン語の世界を読み解いていきましょう. (毎月下旬更新予定)

Et tū, Brūte!
エト トゥー ブルーテ!
(ブルートゥス, お前もか!)

ラテン語とギリシア語

ラテン語の格言についてよもやま話をしようという連載ですが, ラテン語格言に関する私の話の中に, ラテン語の話であるのにもかかわらず, すでにギリシア語の話がたくさん出てきて驚いておられる読者もあるかと思います. 今回は, 非常に有名なラテン語の名句をめぐって, 古代ローマにおけるラテン語とギリシア語の関係について考えてみようと思います. さて, ラテン語で書かれたものであれば何でもラテン語であるというわけではありません. 西洋の学問・文化・宗教・諸制度の言語的な基盤がラテン語にあることは言うまでもありませんが, そのラテン語の基盤のさらに下にはギリシア語で語られた巨大な下部構造が隠されています. 多くの場合, ラテン語とは, その隠された遺産の宝庫への入り口にすぎないのです. ラテン語で伝わっている格言であっても, 非常に多くの場合, もともとはギリシア語で言われたものであったりします. 例えば, この連載の第2回で取り上げた Asinus ad lyram も第4回で取り上げた nosce tē ipsum も, もとはといえばギリシア語の格言でした. 第3回で取り上げた Arcadia も古代ギリシアの地名であり, 元はと言えば, 当然ギリシア語でした.

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野津寛(のつ・ひろし)
信州大学人文学部教授。専門は西洋古典学、古代ギリシャ語、ラテン語。
東京大学・青山学院大学非常勤講師。早稲田大学卒業、東京大学修士、フランス国立リモージュ大学博士。
古代ギリシア演劇、特に前5世紀の喜劇詩人アリストパネースに関心を持っています。また、ラテン語の文学言語としての発生と発展の歴史にも関心があり、ヨーロッパ文学の起源を、古代ローマを経て、ホメーロスまで遡って研究しています。著書に、『ラテン語名句小辞典:珠玉の名言名句で味わうラテン語の世界』(研究社、2010年)、『ギリシア喜劇全集 第1巻、第4巻、第8巻、別巻(共著)』(岩波書店、2008-11年)など。