離婚後共同親権は、子どもを追い詰め、希望をふさぐ(熊上崇)

2024.02.06

法制審議会がとりまとめた要綱案

法務省法制審議会家族法制部会は、2023年12月に離婚後共同親権の導入を含む要綱案1)を提示した。この要綱案について、今国会に提出するという報道もある。離婚後共同親権により、子どもが健やかに、安全に育つのであれば、もちろんこの導入に賛成である。しかし、要綱案のような離婚後共同親権の導入は、子どもの育ちに悪影響を及ぼすおそれがきわめて高い。そもそも、離婚後共同親権について、一般の人だけでなく研究者でも「共同親権を選びたい人が選べる制度」と考えているが、そうではない。

要綱案の第2の1では、現行の民法818条3項にある「婚姻中」を外して、婚姻中であれ離婚後であれ「親権は、父母が共同して行う」としている。例外として「ア その一方のみが親権者であるとき」(たとえば一方の親権者が死亡)、「イ 他の一方が親権を行うことができないとき」(行方不明や刑務所に入っているなど)、そして「ウ 子の利益のため急迫の事情があるとき」には単独親権が可能である。この「急迫」について、精神的・経済的・性的DV、あるいは身体的DVの場合に、「急迫」でないからという理由で家庭裁判所が共同親権と決定できることが危惧され、法制審議会では意見が対立していた。

つまり「一方が共同親権にしたい・一方がしたくない」という不合意ケースでは、たとえ元配偶者との話し合いが困難であったり、会うことによって恐怖を感じるケースであっても「子の心身に害悪を及ぼす」と家庭裁判所が認めなければ、共同親権を決定することになる。

離婚後も双方の合意が必要に

では、このように不合意ケースにおいて家庭裁判所で共同親権と決定すると、どのようなことが子どもに起きるのであろうか。多くの人は離婚後共同親権になれば、「離婚後、パパもママも子育てにかかわれる」よい制度だと思っているが、それは誤りである。

今回の要綱案に示されている離婚後共同親権とは「離婚後、パパとママの双方のハンコ(合意)が必要」「双方の合意が得られなければ、家庭裁判所の調停・審判で決定」という制度である。

要綱案第2の1(3)では、「特定の事項に係る親権の行使について、父母間に協議が調わない場合であって、子の利益のため必要があると認めるときは、家庭裁判所は、(中略)親権の行使を父母の一方が単独ですることができる旨を定める」と記載されている。

これは、子どもの保育園への入園や中学・高校受験などの保育・教育関係、手術やワクチン接種といった医療などにおいて、共同親権者であるパパとママの双方のハンコ(合意)がない場合には、家庭裁判所でその都度「急迫」かどうかについて調停・審判を行わなければならないケースが出てくるということである。

結局のところ、離婚後共同親権とは、子どもの保育・教育や医療などに関して、「別居親である共同親権者の許可が必要な制度」である。別居親がこれを拒否すれば、同居親は毎回家庭裁判所に申立てするわけにもいかず、結果的に子どもが希望する進学や医療がかなわなくなる。

これでは、離婚後も子どものコントロール(支配)を継続することになる。離婚後共同親権は、子どもの人権を侵害し、子どもの進学や医療などの希望を封じることを可能にする制度といえよう。

また、これは当事者だけの問題ではない。保育園、小・中学校、高校の関係者、学童保育、医療関係者、放課後等デイサービスなどの福祉関係者も、入園やサービスの契約にあたって共同親権者の合意が必要となり、双方のハンコを得るために奔走するケースが出てくるであろう。共同親権者の合意なく子どもの入園や入学をしたり、福祉サービスの契約を行えば、事業者も共同親権者から訴えられる可能性がある。

パブリックコメントの実施

そもそも、離婚後共同親権の導入について、2022年12月に法制審家族法制部会は共同親権の甲案と、単独親権維持の乙案を併記した中間試案を発表し、パブリックコメントを実施している2)。パブリックコメントでは、個人から8000件もの回答があり、その3分の2は単独親権維持の乙案を支持するものであったという3)。しかし、法制審議会はパブリックコメントについて一部概略を示したのみで開示や検討を行っていない。

もちろんパブリックコメントに何らかの決定力があるわけではないが、法制審議会はそれを検討せずに、「共同親権を選択したい人がする」という双方が同意している場合に共同親権とする案ではなく、上記の通り、「共同親権について双方が不合意であっても、急迫以外は家庭裁判所が共同親権と決定する」という提案を行っており、パブリックコメントの結果を無視している。

DVケースは「急迫」と見なされるのか

今回の要綱案は、「急迫」以外は単独で親権を行使できるというものであるが、この「急迫」の文言について審議会でも激しく賛否が分かれている。ここで問題となるのが、いわゆるDVケースについて激しい身体的暴力以外は「急迫」と見なされないのではないかということである。

令和4年の司法統計4)を見ると、婚姻関係事件における妻側からの申立て動機は、身体的暴力(18.8%)、精神的虐待(26.2%)、経済的虐待(29.0%)となっており、DVケースも一定の割合がある。こうしたケースで「急迫」でないからと共同親権行使が家庭裁判所で決定されることも予想される。

また、協議離婚の場合も、共同親権が選択できるものとされているが、2022年のシングルマザーサポート団体全国協議会の調査5)によると、協議離婚ケースにおける離婚理由について「暴力」が18.1%、「精神的虐待」が31.2%、「生活費渡されず」が24.1%であり、こうしたケースでは、離婚に応じるかわりに共同親権に合意せざるを得ないケースも出てくるであろう。

そうすると、上記の通り、ようやく離婚できたあとでも、子どもの進学や医療などのたびに共同親権者の許可を得なければならなくなり、場合によっては子どもの望む進学等ができなくなる。こうした離別後虐待・支配(post separation abuseともいわれる)が問題となる。

共同親権推進派の主張

離婚後共同親権を推進する立場の一部の主張として、現在の単独親権制度であると、離婚後も子どもとかかわることができない、面会交流もできない、というものがあるが、これも間違いである。

離婚後も面会交流をしている人は母子世帯の30.2%、父子世帯の48.0%である6)。双方の協議で面会交流できない場合は、家庭裁判所に面会交流の申立てをすることができ、令和4年度の司法統計7)によると、家庭裁判所で月1回以上の面会交流が決定しているのは4090件(全体の41.3%)である。このように、単独親権だからといって離婚後の親子の交流ができないわけではない。

家庭裁判所で面会交流が認められないケースは、子どもへの虐待や明らかな身体的DVなどがあり、子どもの利益に反するとされたものである。こうしたケースはおそらく共同親権制度が導入されたとしても、家庭裁判所の審判で面会交流が認められない可能性が高い。

また、共同親権になれば養育費の支払いが促進されるとの言説も見受けられる。しかし、いわゆる共同親権を導入している欧米各国でも養育費の不払い問題があり、それぞれに工夫している。米国では、養育費不払いの場合に運転免許証を停止するなどのペナルティが課せられており、フランスやスウェーデンでは国による立替制度もある。養育費の不払い問題は、親権問題ではなく、徴収方法の改善の問題なのである。

DV被害当事者の声

2024年1月16日に、筆者が世話人を務める「『離婚後共同親権』から子どもを守る実行委員会」は司法記者クラブで記者会見を行った。そこでは、DV被害当事者の方が以下のような体験談を話してくれた8)

「私は、入籍直後に夫より遅く帰宅したことを理由に殴られました。それ以後、直接殴る蹴るはありませんでしたが、物を投げる・壊す・罵倒・監視・お金の制限・同意ない性行為といった暴力を受けていました。離婚と面会交流の件で裁判所にかかわって5年以上経ちます。心から安心して暮らせていません」
「これから離婚裁判ですが、DVがあったことを証明するのは困難が予想され、もう長い長い裁判はしたくないので、性格の不一致を離婚理由にしようと思っています。マスコミは『共同親権 DVは例外』と報じていますが、私はDVと判断されるのでしょうか? DV被害を訴えても、訴えなくても、どちらを選んでも地獄です。離婚後共同親権になったら、さらに裁判が増えるだけです。法制審議会の先生方には、離婚後共同親権導入の恐ろしさをよく考えていただきたいです。私を殺さないでください」

こうした事例は実際に家庭裁判所での離婚事件で一定の割合で見られるものである。このような事例で共同親権を決定すれば、子どもが成人するまで進学や医療など人生の節目ごとに、あるいは監護における日常行為においても、双方の許可がいることになる。その結果、子どもおよび同居親のメンタルヘルスに重篤な影響が及び、離別後虐待・支配を法的に保障することになりかねない。

また、本稿では深く取り上げることはできなかったが、要綱案では、「監護者を決めない規定」「未成年養子縁組の代諾」も含まれている。「監護者を決めない規定」が導入されれば、上記の体験談のようなケースで、たとえば保育園の送り迎えで毎回トラブルになり得る。「未成年養子縁組の代諾」が導入されれば、子連れ再婚して、再婚相手と子どもが養子縁組するときに、元配偶者の許可がいることになり、結果的に新しい再婚家庭との絆を結ばせないことになりかねない。離婚後共同親権だけでなく、子ども・同居親を離婚後も支配する項目が多いのである。

離婚後共同親権は、これまで述べてきた通り、選択したい人が選択する制度ではなく、一定の割合を占めるDVケースなどで子どもの希望や将来を閉ざし、子どもが成人するまで人生の節目ごとに家庭裁判所の紛争下に置かれることもあり得る制度である。離婚家庭の子どもたちを守るために、離婚後共同親権、とりわけ非合意ケースにおける共同親権の導入は止めなければならない。


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脚注   [ + ]

1. 法務省法制審議会家族法制部会「家族法制の見直しに関する要綱案(案)」部会資料35-1、2023年
2. 熊上崇「共同親権や面会交流における子どもの心理的問題」『こころの科学』228号、2-7頁、2023年
3. 法務省法制審議会家族法制部会「家族法制の見直しに関する要綱案の取りまとめに向けたたたき台(1)(補足説明付き)」部会資料30-2、11頁、2023年
4. 最高裁判所事務総局「令和4年 司法統計年報3 家事編」37-38頁、2022年
5. 石田京子(シングルマザーサポート団体全国協議会協力)「協議離婚したシングルマザーたちの実情――離婚後等の子どもの養育に関するアンケート調査データから」家族法制部会第20回会議参考資料、3頁、2022年
6. 厚生労働省「令和3年度 全国ひとり親世帯等調査結果の概要」4頁、2022年
7. 最高裁判所事務総局「令和4年 司法統計年報3 家事編」43頁、2022年
8. ちょっと待って共同親権プロジェクト「『離婚後共同親権から子どもたちを守る』記者会見記録」YouTube

熊上 崇(くまがみ・たかし)
和光大学現代人間学部心理教育学科教授。1994~2013年家庭裁判所調査官。立教大学コミュニティ福祉学部助教を経て現職。筑波大学大学院人間総合科学研究科生涯発達科学博士後期課程修了。博士(リハビリテーション科学)、公認心理師。主な著書に『ケースで学ぶ司法犯罪心理学――発達・福祉・コミュニティの視点から第2版』(明石書店、2023年)、『面会交流と共同親権――当事者の声と海外の法制度』(共編、明石書店、2023年)、『心理検査のフィードバック』(共編著、図書文化社、2022年)などがある。