ウクライナ領域の「併合」と国際秩序(松井芳郎)

法律時評(法律時報)| 2022.12.06
世間を賑わす出来事、社会問題を毎月1本切り出して、法の視点から論じる時事評論。 それがこの「法律時評」です。
ぜひ法の世界のダイナミズムを感じてください。
月刊「法律時報」より、毎月掲載。

(毎月下旬更新予定)

◆この記事は「法律時報」94巻13号(2022年12月号)に掲載されているものです。◆

ロシアのプーチン大統領は2022年9月30日に、先に「承認」していた「ドネツク人民共和国」と「ルガンスク人民共和国」に加えて、占領下にあるウクライナ東部のヘルソン、ザポリージャの両地域がロシアに「加入」する条約に署名した。ロシアによるウクライナ領のこのような「併合」は、それをもたらしたロシアの侵略戦争自体と並んで、あるいは見方によってはそれ以上に、現存の国際秩序に対する重大な挑戦を意味する。ここでは、こうした観点からこの「併合」の国際法上の問題点を検討する。

1 武力による領域取得の禁止

ロシアによるウクライナ領域の「併合」については、手続的にいえば占領地において住民投票を組織するなどの行為は、占領地の現行法律を尊重する占領者の義務(ハーグ陸戦規則第43条)に違反することを、まず確認しておく必要がある。

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さて、武力による領域取得の禁止は、他国の「領土保全又は政治的独立」に対する武力行使を禁止する国連憲章第2条4の当然の帰結であり、友好関係原則宣言(1970年)、侵略の定義(1974年)などの総会決議や安保理事会の関連決議によって確認されてきた。欧州レベルでは、1975年のヘルシンキ宣言が同様の規定を置く。国際司法裁判所(ICJ)は占領下パレスチナにおける壁建設の法的帰結に関する勧告的意見(2004年)で、憲章に取り入れられた武力行使禁止原則は慣習国際法を反映するものであり、「そのコロラリーである武力による威嚇または武力の行使の結果としての領域取得の違法性についても、同じことが当てはまる」という1)

ロシアによるウクライナ領域の「併合」は、ロシアがウクライナに対して負っている条約上の義務にも違反する。たとえば、1993年の独立国家共同体(CIS)憲章は、「国の国境の不可侵性、現存の国境の承認および違法な領域取得の放棄」、「国の領土保全および外国領域の分離を目的とする行為の自制」といった諸原則を規定する(第3条)。また、1997年のロシア・ウクライナ友好協力パートナーシップ条約は、相互の領土保全と共通の国境の不可侵を確認した(第2条)2)

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脚注   [ + ]

1. ICJ, Legal Consequences of the Construction of a Wall in the Occupied Palestinian Territory, Advisory Opinion of 9July 2004, I.C.J. Reports 2004, p.171, para.87.
2. これらの条約は、『国際連合条約集』第1819巻;第3009巻に所収。