(第46回)ブロックチェーン、NFT関連取引における準拠法(濱野敏彦)

弁護士が推す! 実務に役立つ研究論文| 2022.08.25
企業法務、ファイナンス、事業再生、知的財産、危機管理、税務、通商、労働、IT……。さまざまな分野の最前線で活躍する気鋭の弁護士たちが贈る、法律実務家のための研究論文紹介。気鋭の弁護士7名が交代で担当します。

(毎月中旬更新予定)

横溝大「ブロックチェーンに関する抵触法的考察」

NBL1222号(2022年7月)20頁~25頁より

近時、ブロックチェーンに対する関心が高まっている。

ブロックチェーンは、ビットコインの中核技術として創り出されたものである。正体不明とされるサトシ・ナカモトが、2008年10月に、「Bitcoin: A Peer-to-Peer Electronic Cash System」という論文を投稿し、2009年1月にビットコインの最初のブロックが誕生し、2010年5月に、はじめてビットコインが支払い手段として使用された。

このように、ブロックチェーンは、ビットコインの中核技術として創り出され、現在ではビットコインを含む様々な仮想通貨において用いられている。

 

また、ブロックチェーン技術を用いたNFTの市場規模が急速に拡大している。NFT(Non-Fungible Token)とは、代替性のないトークンであり、ブロックチェーン技術を利用し、唯一無二の存在として、個性に着目されて取引が行われるトークンをいう。例えば、米国のNBA(National Basketball Association)は、NFTのプラットフォームであるNBA Top Shot において、選手のプレー動画のNFTを販売している。このNFTの購入者は、NBA Top Shotにおいて、NFTを他者に販売することができ、一部のNFTは高額で取引されている。

NFTは、メタバース(仮想空間)において活用されることも期待されている。

さらに、ブロックチェーンが高い改竄耐性を有すること、高いトレーサビリティ(追跡可能性)を有すること等に着目して、ブロックチェーンを仮想通貨やNFT以外の様々な用途で利用する試みが行われている。

ブロックチェーンを利用した取引は、インターネットを介して行われるため、国境を越えて行われることも多く、その場合には、どこの国の法律が適用されるかという準拠法の問題を検討することが必要になる。

そして、本稿は、ブロックチェーンを利用した取引が国境を越えて行われた場合の準拠法について考察するものである。

ブロックチェーンを利用した取引には様々なものがあるため、その準拠法を一律に定めることは困難である。

本稿は、この点を踏まえて、ブロックチェーンを利用した取引について、一定の類型化を行った上で検討を進めている。

即ち、①主催者が存在し許諾を与えるクローズドなもの(要許諾システム)か、誰でも参加出来るオープンなもの(許諾不要システム)か、②取引を記録することにより直接権原が移転するのか、それとも台帳への記録は証拠に過ぎないのか、③取引の対象であるトークンの表象しているものがプラットフォーム上の資産であるか否かという3つの類型を踏まえて、暗号資産、及び、スマートコントラクトに関する準拠法の検討を行っている。

また、本稿は、「『ブロックチェーン』『スマートコントラクト』等に関する固有の準拠法選択規則を構想するという方法ではなく、ブロックチェーンを利用した取引から生じる法的問題につき、現行抵触法の解釈によって何処まで対応が可能かという点を明確にすることを先ずは試みる」として、現行法に基づく準拠法の検討を行っている点で、実務的な観点から示唆に富むものである。

本稿は、暗号資産(①暗号資産を用いた決済、②暗号資産システムの参加者間の関係、③暗号資産に対する所謂物権的請求)、及び、スマートコントラクトについて、現行法に基づく詳細な検討を行った上で、ブロックチェーンに関する様々な取引の準拠法は、これまでの判断枠組で基本的に対応可能であると結論付けている。

このこと自体が実務上重要な指摘であるとともに、当該結論が詳細な検討に裏打ちされたものであるため説得的である。

さらに、ブロックチェーンを利用した取引の準拠法はこれまでの判断枠組で基本的に対応可能であるにもかかわらず、立法的に解決することを求める声が高まっている理由について、「ブロックチェーン技術が国際金融取引等において今後果たすであろう役割への期待が大きいせいであろう。同分野では、法的安定性・明確性が強く求められるにも拘らず、従来の抵触法的処理がそこまでの要請を充たしていないということなのではないだろうか」という大変興味深い指摘をしている。

このように、本稿は、ブロックチェーンを利用した取引には様々なものがあることを考慮して一定の類型化を行った上で、現行法の解釈に基づき、ブロックチェーンを利用した取引の準拠法について、詳細、かつ、分かり易く説明している点において、実務的な観点から示唆に富む論考である。

本論考を読むには
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濱野敏彦(はまの・としひこ)
2002年東京大学工学部卒業。同年弁理士試験合格。2004年東京大学大学院新領域創成科学研究科修了。2007年早稲田大学法科大学院法務研究科修了。2008年弁護士登録(第二東京弁護士会)。2009年弁理士登録。2011-2013年新日鐵住金株式会社知的財産部知的財産法務室出向。主な著書として、『AI・データ関連契約の実務』(共編著、中央経済社、2020年)、『個人情報保護法制大全』(共著、商事法務、2020年)、『秘密保持契約の実務〈第2版〉』(共編著、中央経済社、2019年)、『知的財産法概説』(共著、弘文堂、2013年)、『クラウド時代の法律実務』(共著、商事法務、2011年)、『解説 改正著作権法』(共著、弘文堂、2010年)等。