(第2回)雑誌「日本評論」10巻11号(1935年11月号)

目次からみる「日本評論」と時代| 2022.06.28
本コーナーは、日本評論社が1935(昭和10)年から1956(昭和31)年まで発行していた総合雑誌「日本評論」について、目次とその周辺(広告、口絵そのほか)の画像を公開するという試みです。雑誌は時代を映す鏡とも言われます。現在の世界/社会情勢を、さまざまな角度から読み解く一助にしていただければ幸いです。なお、その趣旨から、現在では不適切と思われる表現がございますが、画像に変更は加えず出版当時のまま掲載しております。(不定期更新)

今回ご紹介するのは、創刊から2号目、1935年11月号です。
日評アーカイブズでは、「日本評論」を復刻しています。本号は、こちらから

「日本評論」は、表紙にある通り、前身の「経済往来」を引き継ぐかたちで刊行されました。総合雑誌と銘打ち、政治、経済、社会、文学と幅広い記事を掲載しており、頁数は574頁と、分厚いものでした。

◇「日本評論」と改題してからの第二号だ。
◇総合雑誌の最尖端、名実ともに日本の知的最高峰。
◇百万部の理想もいまは夢ではない。進め!われわれはただ進むことを知っているのみだ。

(「編集局から」より、一部現代仮名遣いに変更。)

編集後記からは、当時の編集部の盛り上がりがうかがえます。

・価格:80銭(都税4銭)
・発行:昭和10年11月1日

「日本評論」の価格は、現在の単位に換算すると1500円程度でした。
ちなみに、1935年当時の蕎麦1杯の相場は10銭ほど、蕎麦8杯食べられるお値段でした。

 

1 表紙

 

 

2 目次

・座談会/三宅雪嶺博士と明治・大正・昭和を語る……三宅雪嶺、長谷川如是閑、古島一雄、杉森孝次郎、緒方竹虎、馬場恒吉、室伏高信
・特別寄稿/日本國民に訴ふ……胡適
・藝術と民族精神……松岡映丘
・桂内閣彈劾の前後……尾崎行雄
・戰爭と文學……ダヌンチオ
・伊エ戰は日本にどう響くか……米田實、小島精一、飯田清三
・讀書と學門……桑木嚴翼
・神祇論……幸田露伴

※すべての掲載記事が目次に表記されているわけではありません。

 

3 当時の出来事から

1 満州事変(1931年)から約4年

・特別寄稿/日本國民に訴ふ(胡適)

◇本号は約束の胡適之の論文を載せる。当代支那第一の評論家、世界的名士、いま本誌を通じて、日本に訴える。

◇日本はこの隣人の知的代表に耳を傾けるだけの雅量をもつに違ひない。

(「編集局から」より)

胡適(1891年~1962年)は、中華民国の哲学者・思想家であり、新文化運動の中心を担った人物です。戦後、1945~1948年の間、北京大学学長を務めました。

本誌発売は満州事変から約4年後であり、胡適は日本の満州支配について言及しており、なかには伏せ字で掲載されている箇所もあります。

 

・満鮮スリル行(大宅壮一)

 

 

評論家、ノンフィクション作家である大宅壮一(1900~1970年)が、1935年夏に、京城(現在のソウル市)→平壌→新義州→大連→山海関(万里の長城の関所のひとつ)→黒河(ロシアとの国境都市)→奉天(現在の藩陽市)・新京(現在の長春市)・ハルビンを訪れた際の旅行記。

 

 

2 第二次エチオピア戦争

1935~1936年にかけて、第二次エチオピア戦争が起こりました。
イタリアのムッソリーニ政権が、植民地化を意図して、エチオピアに侵攻しました。
国際連盟により、イタリアに対し、経済制裁が行われたことが、本誌でも触れられています。

 

創刊号である前号では、口絵にて、第二次エチオピア戦争の写真が掲載されていました。

本号では、日本への経済的な影響を懸念した記事や、当時の情勢を風刺した戯曲のほか、イタリアの詩人であり、三島由紀夫に影響を与えた、ガブリエーレ・ダンヌンツィオ(1863~1869年)による「戦争と文学」など、戦争に関連した記事が掲載されています。

4 物語(川端康成)

 

 

「日本評論」は、文芸誌としての性格も持ち、著名な文豪の小説や随筆、文芸評論などを、多く掲載していました。本号には、川端康成が、短編小説を寄稿しています。

代表作『雪国』は、『中央公論』『改造』『文藝春秋』など、複数の雑誌に各章が連作として書き継がれました。この『物語』も『雪国』の一部です。

 

 

5 綜合雑誌論(新居 格)

 

当時の総合雑誌は、学生・インテリ層を主な読者にもち、学術論文を多く掲載し、一種の民間アカデミーを形づくっていたといいます。

新居格(1888~1951年)は、評論家、社会運動家であり、戦後は杉並区長、日本ユネスコ協会理事を務めました。本稿では、社名を雑誌名として掲げた、『中央公論』『改造』『日本評論』『文藝春秋』4つの主要総合雑誌を、それぞれ比較しています。

 

6 編集後記から

「出版部便り」

こちらは、日本評論社の新刊案内やそのほかのニュースです。

当時、天皇機関説事件(1935年2月)の渦中にあった美濃部達吉による『法の本質』1)や、ニーチェ全集、室伏高信による訳書『論語』などが紹介されています。

「編集局から」

こちらは、上記の引用のように、「日本評論」編集部が、各記事の読みどころに触れています。

 

オマケ:広告をみてみよう!

他社広告

たくさん掲載されていますが、いくつかご紹介します。

 

左は歯磨き粉、右は鉛筆の広告です。
ほかにも、スーツや胃腸薬など、多くの他社広告が掲載されています。

自社広告

(1) 法律時報

法律時報2)は、現在も刊行されている法律専門雑誌です。
ここに掲載されているのは、第7巻第10号の広告。責任編集者の末弘厳太郎をはじめ、牧野英一、穂積重遠など、当時の有力な法学者が寄稿しています。
・定価:50銭(送料2銭)
・法律時報第7巻第10号→TKCローライブラリーへ(「法律時報」創刊号よりPDFを提供しています)

 

(2) 読本シリーズ

 

読本シリーズは、さまざまな分野の入門書のようなもので、シリーズは約40冊にわたり、大きな啓蒙的役割を果たしました。

本号に広告がある、佐佐木信綱による『万葉読本』、高浜虚子による『俳句読本』のほかにも、太田正孝『経済読本』、尾崎行雄『政治読本』、武藤山治『実業読本』などがありました。

なお、本号の復刻版は、日評アーカイブズから購入できます。

脚注   [ + ]

1. この年の発行後、まもなく発売頒布を禁止されました。「日評アーカイブズ」にて取り扱いがあります。
2. 「法律時報」とは、時事法律解説をはじめ、中堅法律家のライフワークともいえる研究論文発表の場として定評のある唯一の専門誌。1929年の創刊以来、「市民のための法律学」の立場に立ち、問題提起を行ってきました。最新の法律問題、判例情報にも素早く対応しつつ、理論的に深みのある本格的な分析を行っており、特集は、学界のオピニオンリーダーともいわれます。