(第3回)図表を自分流にアレンジしてみよう!-令和2年司法試験予備試験問題を題材に(金井高志)/『民法でみる法律学習法 第2版』から

きになる本から| 2021.08.06
法律を整理して理解するツールとしての「ロジカルシンキング」を解説した『民法でみる法律学習法 第2版』。皆さんはもう試してみましたか?
これから3回にわたり、本書の学習法を実践する形でご紹介していきます。第1回・第2回では、令和2年司法試験予備試験の問題を題材に、本書の学習法を実際に使って事実を整理し、答案構成まで行います。
本書を読んだ方も、興味はあるけど迷ってる…という方も、ぜひ参考にしてみてください。
第3回目は「まとめの図表作成」です。思考パターンにあわせて整理してみましょう。

コラム1「(第1回)図式化をしてみよう!」コラム2「答案構成を作ってみよう!」では、令和2年司法試験予備試験の民法の論文式試験問題を題材に、「事例を図式化する方法」と「答案構成の方法」を紹介しました。

今回のコラム3では、令和2年の司法試験予備試験問題で出題されていた「消費貸借契約」と「代理」を素材にして、まとめの表を作成するための手法のロジカルシンキングを説明していきたいと思います。

なお、令和2年司法試験予備試験の民法の論文式試験問題は、以下の法務省のウェブサイトで閲覧することができます【PDF】

それでは、この試験問題で出てきた代理人により締結された消費貸借契約を素材に、まとめの図表の作成方法を考えていきましょう。まず、一般的な図表の作成方法を説明し、その後に、学生が作成した図表を基にして、それを添削していくという順番で説明をしていきたいと思います。

ロジカルシンキングの「フレームワーク思考」を使う

ロジカルシンキングには、物事を白紙で考えるゼロベース思考、考える際の視点を決める、また、分解・分類の際の視点を決めるフレームワーク思考、そして、意思決定にあたり常に複数の選択肢を考えるオプション思考の3つがありますが(『民法でみる法律学習法 第2版』23-35頁を参照)、法律学習において一番大切なロジカルシンキングの手法は、フレームワーク思考です。これは、詳しく説明すると、ものごとを理解しやすくしたり、また、説明しやすくしたりするために、
(i)対象とする課題につき、まず、フレームワーク(全体の枠組み)を使用して、そのなかで様々な事項・要素を考え出していくこと、また、
(ii)既に提示されている様々な事項・要素につき、まず、全体像を俯瞰し、フレームワーク(全体の枠組み)を踏まえて、最適の視点や切り口で、分類・分解すること(「グルーピング」)
の2つの内容を持つ思考法です(『民法でみる法律学習法 第2版』26-34頁を参照)。この点、大ざっぱですが、フレームワークで考えることは、演繹的思考に近く、また、グルーピングをすることは、帰納的思考に近いものです(『民法でみる法律学習法 第2版』179-186頁を参照)。

資格試験勉強の際に必要となるフレームワーク思考は、既に提示されている様々な事項・要素をまとめるためですので、上2つの思考法のうちの後者(ii)のフレームワークを踏まえて、最適な視点や切り口で、分類・分解するという思考方法です。

「マトリックス手法」を使った図表作成

ロジカルシンキングの図表作成手法には3つの方法があります(『民法でみる法律学習法』35-43頁を参照)。(i)ロジックツリー手法:構成要素の相互の関係や大小関係を明らかにして階層化・構造化すること、(ii)マトリックス手法:構成要素の相互関係を二次元で整理すること、そして(iii)プロセス手法:構成要素につき時間軸を明確に意識して工程・過程で整理すること、の3つです。まとめのための図表の作成に必要なものは、マトリックス手法です。

今回は、図表作成手法で一番重要なマトリックス手法を説明していきます(『民法でみる法律学習法 第2版』38-41頁を参照)。マトリックス(格子状の配列)手法とは、縦軸と横軸の二つの軸により、多くの要素を整理して体系化する手法で、そのうちの情報型マトリックス(テーブルタイプ)で、四角形で枠を作り、上段と左側のボックスに項目を入れることで、大量の要素を網羅的に整理し、要素の相互関係を整理する方法です。これは、法律学の学習においては、多くの場面で活躍する手法です。これにより、制度や学説の対立が比較対照されるために、それらの同じ部分や異なる部分が明確にされます。

一般的なマトリックスの作成方法としては、上の欄(最上段の行)に比較しようとする対象を入れることになります。この点、左端の縦の行に比較する対象を入れている教科書や予備校テキストの図表をしばしば見かけます。これは、本来的なマトリックス手法からすると少しずれている図表なのですが、教科書などの書籍の場合には、レイアウト上、そのようにせざるを得ないケースが多いと考えられます。

例として、民法94条2項「善意」の学説(比較対象)の比較要素を記載した表を載せておきます(『民法でみる法律学習法 第2版』40頁に掲載している表と同じ表です)。この例のように、情報型マトリックスを作成すると二つの対立する学説の比較を簡単にすることができるのです。

消費貸借契約、使用貸借契約及び賃貸借契約を比較する

令和2年司法試験予備試験の試験問題で出てきた代理人により締結された消費貸借契約ということで、消費貸借契約と代理を素材に、図表の作成を考えていきましょう。まず、消費貸借契約の締結が問題とされているものですが、消費貸借契約と似ている契約類型がありますので、それらを検討してみましょう。消費貸借契約、使用貸借契約、及び賃貸借契約です。勉強が進んでいる学生・受験生の皆さんであれば、これらの契約類型の違いなどを答えることができると思いますが、情報型マトリックスを作成して、整理したことがある人は少ないかもしれません。まず、学生が作成した表をサンプルとして下に記載します。

教科書や資格試験の予備校のテキストでこのような図表を見たときに、皆さんは、どのように思いますか? 「すごい、まとめられているので、これで比較表として覚えよう!」と思う人が多いと思います。しかし、ちょっと待ってください。他人が作成した図表は他人の思考パターンに基づいて作成されているものです。皆さん自身の思考パターンとは異なるパターンで整理されているとすれば、覚えにくいものとなっています。ですから、教科書や資格試験の予備校のテキストでマトリックスを見た場合には、自分自身の頭の思考パターンに合わせて修正しなければなりません。

それでは、上の図表を添削して行きましょう。

① 比較対象は最上段の行の横軸に書く

まず、消費貸借契約、使用貸借契約及び賃貸借契約を比較するのですから、民法典での順序を考え、マトリックスの上の行に並べて記載することがよいので、この点はよいと思います。学生のよくやる過ちは、複数の事項を比較する際に、左側の縦の行の欄に比較対象を記載することです。この点は過ちを犯さないよう注意しましょう。

② 比較要素は規則に従って並べる

そうすると、次は、「債務の内容」「目的物の所有権関係」「有償か無償か」「要物契約か諾成契約か要式契約か」の記載の順番がよいか、ということになります。複数の比較要素がある場合、必ず、記憶のためには、並び方に規則性を持たせることが必要です。これがロジカルシンキングの記憶方法です。それでは、上の4つの項目をどのように整理しますか?。ロジカルシンキングのフレームワーク思考では、MECEを考えなければなりません。そして、既に複数の要素が与えられている場合には、MECEを活用してグルーピングをしなければなりません。

法律学の重要なMECEの一つとして、「形式・実質」の枠組みがあります。ここで、「形式」に対応するのは、契約の成立についての「要物契約か諾成契約か要式契約か」です。残りの「債務の内容」「目的物の所有権関係」「有償か無償か」は、それぞれの契約の実質的内容で、「実質」に該当するものです。そうすると、図表の左側の欄の一番上に来るのは、この「要物契約か諾成契約か要式契約か」の項目であるべきです。そして、これは、3項目が記載されていて、項目の見出しとしては良くないので、抽象化して「成立要件」としてしまうことがよいと思います。

次に、他の「債務の内容」「目的物の所有権関係」「有償か無償か」は、それぞれの契約の実質的内容ですが、これをどのように分類するかです。MECEとして、「抽象・具体」の枠組みがあります。有償か無償かという問題は、相手方から受け取る財産的利益に応じた経済的出捐を当事者双方が相互に負担しているかどうかという問題で、契約の抽象的(一般的)な性質ですが、「債務の内容」や「目的物の所有関係」は個別の契約内容なので、具体的な内容です。そこで、「成立要件」のあとに、「有償か無償か」の項目を入れることになります(ただ、項目の見出しを単純化して「有償・無償」とするほうがよいと思います)。

その次に、「債務の内容」「目的物の所有権関係」の2つの順序が問題となります。債権関係と物権関係であるとすれば、契約では債権関係を先に考えることになります。そこで、「有償・無償」の項目の後には、契約の債権債務の内容として「債務の内容」が来ることがよいことになります(ただ、これは借主の債務ですので「借主の債務内容」とするほうがよいと思います)。そして、債権債務の後に出てくる物権関係の事項として、「目的物の所有権関係」を項目の最後に置くことになります。「借主の債務内容」と「目的物の所有権関係」の部分は、使用貸借契約と賃貸借契約で共通ですので、セルを分けるための罫線を記載する必要はありませんので、同じであることを容易に記憶することができるように、セルを結合させ削除します。

以上のことを踏まえて、元の図表を整理し直すと、以下の図表になります。ここでは、フレームワーク思考のMECEの「形式・実質」「抽象・具体」を使用して項目を分類し、マトリックス手法に基づいて、図表を作成したことになります。教科書や予備校のテキストで図表を見た時に単純にそれを覚えるのではなく、自分なりに再構成をすると、内容を単純暗記するのではなくなりますので、記憶の定着がよくなります。

代理権の消滅事由について、任意代理と法定代理を比較する

次に、代理の問題が出題されていて、任意代理が問題とされていました。このことから、代理(効果帰属要件については『民法でみる法律学習法 第2版』110-111頁を参照)に関わる問題として、任意代理と法定代理を考え、その代理権の消滅事由を考えてみましょう。

(1) 代理人による意思表示
(2) 代理人が、(2)の際、本人のためにすることを示したこと(顕名)
(3) (2)に先立つ代理権の発生原因

これらが代理の要件ですが、民法111条において代理権の消滅について規定されており、消滅事由が任意代理と法定代理で異なります。そこで、比較対照表を作成してみようと思いますが、まず、学生が作成したサンプルを紹介します。

マトリックスの作成方法に基づき、修正をしていきます。ここでは、任意代理と法定代理の代理権の消滅原因を比較しようとしていますので、比較対象とする任意代理と法定代理は、上の欄(最上段の行)に記載します。

左右どちらに記載するかは、プロセス思考として、原則から例外に思考が流れるものですので、原則となる項目を左側に記載し、例外となる項目を右側に記載します。代理は、任意代理が原則であり、特定の場合にのみ認められる法定代理は例外であることから、任意代理は左側に、法定代理は右側に記載します。

上の表を見てみると、任意代理と法定代理において、代理人についての代理権消滅事由は、違いがありません。2つのセルがあると、内容が異なると考えてしまうことになりかねません。そこで、このマトリックスでも、セルをつなげて、1つのセルにしておくほうが記憶のためにはよいと思います。そして、左端の代理権の消滅事由の記載を少しわかりやすくなるように言葉を追加しておきます。

以上のことを踏まえて、図表を再度作成し直すと、以下のような図表となります。

以上、令和2年司法試験予備試験の民法の論文式試験問題に出てきた消費貸借契約と代理権についての関係事項を図表にしてみました。法律系の資格試験の場合、択一式の試験問題があり、それに対応するためには、基本事項を記憶しておく必要があります。自身にとってわかりやすく整理されている、自身の思考のパターンの順序に沿った基本事項の整理の図表があれば、記憶するときに極めて容易に覚えることができるはずです。このようなことを考えれば、ロジカルシンキングに基づき図表(マトリックス)を作成することが試験対策としてとても重要であることがわかってもらえると思います。

民法でみる法律学習法 第2版』では、法律学の初学者にとって学ぶ機会がほとんどない、図表の作成方法を詳しく説明しています。ぜひ、本書を法律の勉強の一助としていただければ幸いです。

◆本書について他のコラムを読む
第1回第2回・第3回


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金井高志 著『民法でみる法律学習法 第2版-知識を整理するためのロジカルシンキング

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金井高志(かない・たかし)
フランテック法律事務所代表弁護士・武蔵野大学教授。
1981年東京都立両国高等学校卒業。1985年慶應義塾大学法律学科卒業。1987年同大学大学院法学研究科修士課程修了(民事法学専攻LLM)。1989年弁護士登録(第二東京弁護士会)。1992年アメリカ・コーネル大学ロースクール修士課程修了(LLM)。1993年イギリス・ロンドン大学(クイーン・メアリー・カレッジ)大学院修士課程修了(商事・企業法専攻LLM)。