『民法でみる法律学習法─知識を整理するためのロジカルシンキング 第2版』(著:金井高志)

一冊散策| 2021.04.14
新刊を中心に,小社刊行の本を毎月いくつか紹介します.

◆著者の動画メッセージ

[第2版]はしがき(抄)

本書の初版刊行の2011年から約10年が経過した。本書の刊行後、本書は多数の読者に恵まれ、また、筆者は、慶應義塾大学法科大学院の現代契約実務の講義、また、武蔵野大学法学部法律学科の2年生のプレゼミや3年生・4年生のゼミナールで、本書を教科書として使用してきた。本書を教科書として使用する中で、本書についていくつかの補充が必要な事項を見つけることとなった。また、刊行後、2017年に民法(債権法)の改正が行われ、2020年4月1日から施行された。民法の改正により、本書の中で引用している民法の条文の削除、修正等がなされ、契約の有効要件に変更が生じたり、また、瑕疵担保責任の性質論などの論点が消滅したりして、修正の必要な箇所がいくつも発生した。また、それらに関連して、引用文献や引用箇所の訂正が必要となってきた。そこで、以上のようなことを本書に反映すべく、今回、第2版を刊行することとした。

今回の第2版における具体的な改訂方針や改訂事項は次のとおりである。

まず、今回の第2版の対象読者につき、法学部の学生や法科大学院の学生だけではなく、行政書士試験や宅地建物取引士試験などの法律科目がある国家試験の受験者も対象読者とすることとした。そこで、全体として解説をよりわかりやすくするために多くの加筆を行った。

また、具体的には、読みやすさと理解のしやすさを高めるために、まず、従前の第3章(法律学のフレームワークとなる基礎概念・用語)の中に従前の第4章(法的三段論法とリーガルマインド)を含めることで、新しい第3章(法律学におけるロジカルシンキング)とした。そして、条文の構造や読み方、また、条文解釈の方法の説明をする前に民法の体系を理解してもらうことができるよう、従前の第8章(民法・私法の基本原則と民法典の体系)と第9章(時系列に基づく民法の体系)を本書の前半部分に移動させ、第4章と第5章としている。このように、本書の前半部分の第3章から第5章は大幅に構成が変更されている。

さらに、本書の後半部分の第6章(法律の構造と条文の読み方)においては、多数引用されている民法の条文を、改正民法に対応したことはもちろんのこと、新たに、事例問題の図式化や具体的な答案作成についての第9章(ロジカルシンキングに基づく答案作成)を書き加えている。また、三つの章において関連する内容の読み物としてコラムを追加した。

なお、追加された第9章は、本書を極めて特徴的な本とする内容となっている。本書の初版は、民法や法律の学習方法を説明する書籍として執筆され、その一部として、ロジカルプレゼンテーションである答案の作成方法を説明していたが、具体的な答案作成方法は少ししか触れていなかった。しかしながら、筆者が、法学部や法科大学院で講義・試験をするときに、大学生や大学院生の中には、事例問題の解答にあたり、事例の内容の図を作成していない、また、答案構成をきちんとしていない学生がいることに気づいた。筆者を含む多くの大学教員は、学生が事例問題を解答するにあたり、事例を図式化することは当然と考えているが、実際には、事例を図式化していない学生や、図式化していても、自己流で図式化しているために、不十分な図式しか作成できていない学生が少なくない。事例を的確に図式化できていないことから、ナンバリングを含む答案構成がおろそかになっている学生も少なくない。そこで、本書の第2版では、事例問題について図式化するための手法を説明し、その図式化に基づく答案構成、そして、具体的な答案の書き方についても、説明した。事例問題の図式化については、法学の入門書でもほとんど記述がなく、法律学の初学者が学ぶ機会がほとんどないので、図式化の方法論などを含む第9章は、本書が類書と大きな違いを出す、特徴的な部分である。第9章は多くの法律学の学習者に読んでもらいたい。

2020年12月

フランテック法律事務所代表弁護士
武蔵野大学大学院法学研究科教授
武蔵野大学法学部法律学科教授
慶應義塾大学大学院法務研究科講師
金井 高志

[初版]はしがき(抄)

1 本書が対象とする読者

本書は、筆者が講義を担当する慶應義塾大学法学部における「民法演習」(「民法の基礎理論とその応用」)の中における民法を題材にして法律学の学習法や法律学における答案の書き方などの説明をしている「ロジカルシンキング」、「ロジカルプレゼンテーション」および「法律条文の解釈方法」の講義の内容を基礎として、民法の基礎理論や法律の基礎理論の学習に興味を持つ学生を対象にして執筆したものである。

筆者は、大学法学部や法科大学院において民法の講義をしているが、法律学の基礎理論の学習が十分でないために、民法の理解に支障をきたしている学生を多くみかける。大学法学部の学生であれば、1学年のときに、「法学」の講義を受けているもので、その講義で、憲法などの公法や民法などの私法に関する基礎理論や法律の解釈に関する基礎理論を学習しているはずであるが、学年が進むに従って、それらを忘れている学生が極めて多い。また、法科大学院においては、法学部の出身ではない法科大学院生が多くいるが、法学部出身ではないために、法律学の基礎理論を学習することなく法律を勉強してしまい、法律の理解に困難をきたしている法科大学院生もみかける。

そこで、本書は、法律の学習を始めたばかりの学生、および、民法を含めた法律の学習がある程度進んでいる学生を対象として、民法を題材に法律学の基礎理論を学習してもらい、現在、勉強している法律学の学習に活かしてもらうために執筆したものである。

2 本書のコンセプト

本書は、論理的に物事を整理し、発表する技法であるロジカルシンキングを基にして、民法を中心とする法律の学習法を解説するものである。法学部や法科大学院の学生にとって、この「ロジカルシンキング」は、なじみのない言葉であろう。ロジカルシンキングは、アメリカにおいては、100年程度の歴史を持つといわれるが、日本においてこの言葉がビジネスの分野で一般に使用され始めたのは、25年程前である。筆者は、約20年間、いわゆる渉外法律業務を含めた企業法務の分野に従事しているところ、15年程前に、経営コンサルタントの大前研一先生が開設した「アタッカーズ・ビジネススクール」において、その第1期生として、ベンチャー企業の経営に関するコースを受講した。その際に、コンサルティング会社がコンサルティングを行う際に用いる思考方法であるロジカルシンキングの講義を受ける機会を得た。

筆者は、法学部の学生時代から、民法などの法律を学習する際に図表を作成することを常に心がけていたが、当時は、図表の作成方法につき体系的に説明がなされている書籍はほとんどなかったために、様々な書籍に記載されている図表を参考に自分なりの方法で図表を作成していた。しかし、アタッカーズ・ビジネススクールでロジカルシンキングの講義を受けることで、自分が行っていた図表の作成方法を体系的に整理することができたのである。その後、ロジカルシンキングに興味を持ち、様々な書籍を読み、法律学の分野でどのようにロジカルシンキングを用いることができるかを考え始めた。そして、筆者の講義において、企業経営やビジネスのために執筆されたロジカルシンキングの書籍の内容を基に、法律学における題材を使用しながら、この約10年間、ロジカルシンキングを学生に解説してきた。ロジカルシンキングの基礎理論を意識しながら法律を学習すれば、様々な論点を正確に整理し理解することができることから、筆者の講義では、常に学生に対してロジカルシンキングを意識させるようにしている。このような講義の内容をまとめたものが本書である。

ロジカルシンキングに関する従前の書籍は、経営・ビジネス分野における題材をテーマとし、ビジネスパーソンを読者対象としていたため、本書は、ロジカルシンキングの手法を用いて法律を説明する最初の書籍であると考えられる。そして、本書は、2008年4月に刊行した『民法でみる知的財産法』の姉妹編でもある。

本書は、ロジカルシンキングの基礎理論に基づき民法の学習のために必要な体系的かつ総論的な基礎理論を説明しているものであるが、前著は、民法の基礎理論を基にして、特許法と著作権法の基礎を解説するというコンセプトでまとめられ、特許法と著作権法の基礎を説明するために必要な範囲で物権法、担保物権法、契約法および不法行為法に関する民法の基礎理論の説明をしているものである。そこで、本書においてロジカルシンキングに基づく民法の体系的かつ総論的な基礎理論を学んだ後に、前著『民法でみる知的財産法』における物権法、担保物権法、契約法、そして不法行為法に関する基礎理論の該当箇所を読んでもらえば、民法全体に関する基礎理論が明確に理解できると思われる。本書を読み終わった後に、『民法でみる知的財産法』の民法に関する説明箇所を読んでいただければ幸いである。

そして、本書でロジカルシンキングを学ぶことにより、私法の基本法である民法を基にして法律学の学び方を身に付け、また、その特別法である商法、会社法、知的財産法(著作権法、特許法など)、労働法などの法律についての学び方を身に付けることができ、ひいては、公法を含む法律学全体の学び方を習得することができると考えられる。本書では、重要なポイントにつきゴシックの強調を入れている。それらに注意しながら本書を理解し、本書を法律学全体の学習に役立ててもらえればと思う。

3 おわりに

本書の執筆にあたっては、多くの書籍・論文を参考にさせていただいている。本書のコンセプトに基づいて本書をまとめるにあたり、教えられることが多かったものを参考文献として掲げている。参考にさせていただいた書籍・論文の著者の方々には厚く感謝したい。ただ、参考文献は、同時に、その部分に関してより詳しく勉強をしようとする読者のためでもあるので、より深い内容に興味を持った場合には参照してほしい。

本書の出版後、民法の債権法分野の改正がなされる可能性があるが、改正がなされれば、それによる修正をし、また、本書をより良いものとするため、読者の意見を聞きながら、本書を改訂していきたい。

2011年7月

フランテック法律事務所弁護士
慶應義塾大学法学部・大学院法務研究科講師
金井 高志

目次

序 章 なぜ法律をロジカルシンキングの視点からみるのか――法律学におけるロジカルシンキング

第1章 論理的思考方法と説明方法――ロジカルシンキング総論
1 ロジカルシンキングの意味
2 狭義のロジカルシンキング
3 ロジカルプレゼンテーション
4 まとめ

第2章 論理的思考と図表作成の方法――狭義のロジカルシンキング
1 狭義のロジカルシンキングの思考方法
2 狭義のロジカルシンキングの図表作成手法

第3章 法律学におけるロジカルシンキング――MECE・法的三段論法・リーガルマインド
1 法律学におけるMECEのフレームワークとなる基礎概念・用語
2 法律学におけるロジカルシンキング・プレゼンテーションの基本――法的三段論法
3 法律学全体をカバーする基本理念――リーガルマインド
4 法律学におけるロジカルシンキングの重要性

第4章 民法・私法の基本原則と民法典の体系――民法の全体構造
1 民法の基本原理――民法の三大原則とその変容
2 信義誠実の原則(信義則)と権利濫用禁止の原則
3 民法典の構造――パンデクテン構造
4 民法におけるMECEのフレームワーク
5 民法におけるMECEを用いたフレームワークのまとめ

第5章 時系列に基づく民法の体系――民法各論
1 はじめに――民法における成立要件から対抗要件
2 契約の成立要件
3 契約の有効要件
4 契約の効果帰属要件
5 契約の効力発生要件
6 対抗要件
7 まとめ

COLUMN① 教科書の読み方

第6章 法律の構造と条文の読み方――条文の形式的な意味
1 法令・条文の形式的意味の理解の必要性
2 条文の形式的意味の理解のために必要な知識
3 条文の形式的意味の確定から実質的意味・適用範囲の確定へ

第7章 条文解釈の方法――規範の実質的内容の検討
1 法解釈と条文解釈の意義
2 法的三段論法と条文解釈
3 法律要件と法律効果
4 条文解釈の身近な具体例
5 条文解釈の一般理論

COLUMN② 民法の歴史と民法を作った人々

第8章 法的文章の作成方法――ロジカルプレゼンテーション
1 ロジカルプレゼンテーション総論
2 ロジカルプレゼンテーションの内容に関する必要条件
3 ロジカルプレゼンテーションの方法に関する必要条件

第9章 ロジカルシンキングに基づく答案作成――事例の図式化と答案構成・作成の手法
1 事例を図式化する方法
2 答案構成の方法
3 答案構成に従った答案の作成

COLUMN③ 答案作成に関するポイント

あとがき――法律学習のポイント

事項索引

書誌情報など