(第2回)答案構成を作ってみよう!-令和2年司法試験予備試験問題を題材に(金井高志)/『民法でみる法律学習法 第2版』から

きになる本から| 2021.07.01
法律を整理して理解するツールとしての「ロジカルシンキング」を解説した『民法でみる法律学習法 第2版』。皆さんはもう試してみましたか?
これから3回にわたり、本書の学習法を実践する形でご紹介していきます。第1回・第2回では、令和2年司法試験予備試験の問題を題材に、本書の学習法を実際に使って事実を整理し、答案構成まで行います。
本書を読んだ方も、興味はあるけど迷ってる…という方も、ぜひ参考にしてみてください。
第2回目は「答案構成」の方法です。第1回目で作り上げた図がいかに有用かがわかりますね!

前回のコラム1「(第1回)図式化をしてみよう!」では、令和2年司法試験予備試験の民法の論文式試験問題を題材に、「事例を図式化する方法」を紹介しました。

今回のコラムでは、前回のコラム1で作成した下の図を見ながら、「答案構成の方法」を紹介します。この図を見ると、令和2年司法試験予備試験の民法の論文式試験問題の事例を思い浮かべることができるはずです 。

令和2年司法試験予備試験 民法の試験問題は、法務省のウェブサイトで閲覧することができます【PDF】

それでは、図を見ながら、また、事実を確認しながら、答案構成を考えていきましょう。

前回のコラムでも記載をしましたが、設問1は、以下の内容です。

〔設問1〕
Cは、本件消費貸借契約に基づき、Aに対して、貸金の返還を請求することができるか。

まず、Cが、B(代理人)ではなく、A(本人)に対して、請求を行っていることがわかります。そして、Cからの請求ができるか、という問いであり、Cからの請求ができるかどうかを判断するためには、Cからの請求に対するAの反論、また、Aの反論に対するCからの再反論などを検討する必要が出てきます。

なお、この民法の問題全体について、設問1と設問2に分かれており、通常であれば、それらに関して論述する内容を示す見出しを作り(設問1については「第1」で、設問2については「第2」とする)、それらの内容をさらに細分化する内容については、1、2、……に分けてナンバリングをし、その下を(1)、(2)……に分けてナンバリングをして、ロジカルシンキングのロジックツリー手法を適用していくものです(ロジックツリー手法については『民法でみる法律学習法 第2版』35-38頁を参照)。ただ、このコラム2では、設問1のみの答案構成をするもので、ロジックツリー手法のツリーの一部を作成していくものになり、それぞれの当事者の主張と反論、再反論、再々反論ということで、プロセス手法で答案構成をしていくことになります(プロセス手法については『民法でみる法律学習法 第2版』41-42頁を参照)。

Cによる主張について

「本件消費貸借契約に基づき」、「貸金の返還を請求」をしている事案ですから、民事訴訟法の基本事項を勉強している学生・受験生であれば、また、要件事実論(民事裁判における当事者の主張・立証の対象を決めるルール)の基本事項を勉強している学生・受験生であれば、設問1の内容から、この請求の訴訟物が、本件消費貸借契約に基づく貸金返還請求権であることがわかると思います。

請求権(訴訟物)がわかったら、次は、請求のための法律要件(請求原因事実となる要件事実)が何かを考えます(法律要件については『民法でみる法律学習法 第2版』153頁を参照)。事実の第1段落目から、法律要件(要件事実)となる事実を探していくことになります。事実の第1段落と第2段落から見てみると、これらの事実は背景事情の説明となっていることがわかります。そこで、以下の事実の第3段落から法律要件(要件事実)となる事実を探していくことになります。

3.令和2年4月20日、BはCの自宅を訪れ、Aの命を助けてくれたことの礼を述べた。Cは、Bから、(※1)Aの意識がまだ戻らないこと、Aの治療のために多額の入院費用が掛かりそうだが、突然のことで資金の調達のあてがなく困っていることなどを聞き、無利息で100万円ほど融通してもよいと申し出た。

そこで、BとCは、同日、(※2)返還の時期を定めずに、(※3)CがAに100万円を貸すことに合意し、CはBに100万円を交付した(以下では、この消費貸借契約を「本件消費貸借契約」という)。本件消費貸借契約締結の際、(※4)BはAの代理人であることを示した。Bは、(※5)受領した100万円をAの入院費用の支払に充てた。

まず、消費貸借契約に基づく貸金返還請求権については、その貸金返還請求権の発生の有無を考えることが必要となり、本件消費貸借契約の成立が検討課題となります。

本問題の事実では、本件消費貸借契約について、書面が作成されている事実の記載がありませんので、民法587条の要物契約としての消費貸借契約の成立(契約の成立要件については『民法でみる法律学習法 第2版』102-105頁を参照)が検討課題となります。民法587条では以下の事項が法律要件とされています。

(1)金銭返還の合意(民法587条での成立要件1)
(2)金銭の交付(民法587条での成立要件2)

本問は司法試験の予備試験であり、予備試験の受験者は要件事実論の基礎事項を理解しているものですが、本問は、あくまで民法の問題であり、要件事実論に関わる事項までは問われていません。そこで、要件事実論に基づく解答を作成する必要はありません。また、予備試験の受験生以外の学生は、要件事実論を学習するものではありません。このような学生が勉強の教材として司法試験の予備試験の問題を解く場合にも、あくまでも民法の問題として解答すればよいものです。そこで、上のように、貸主が、借主に対し、貸金の返還を求めるためには、消費貸借契約の合意をし、金銭が交付されたこと[消費貸借契約の成立]が必要となる(民法587条)と理解をした上で、上の(1)と(2)だけを法律要件と考えて、答案構成を考えてもらえればよいと思います。

ただ、要件事実を学習している受験生のために、要件事実論に基づいて本問を検討しておくと、消費貸借契約(の終了)に基づく貸金返還請求権については、返還時期の合意の有無で、要件事実が異なり、下線部(※2)を見ると、本問では、返還の時期の定めがない場合であることがわかります(民法591条1項)。返還時期の合意がない場合としての要件事実は以下のものとなります。

〈1〉金銭返還の合意(民法587条での成立要件1)
〈2〉金銭の交付(民法587条での成立要件2)
〈3〉催告(民法591条1項)
〈4〉客観的相当期間の末日の到来(民法591条1項)

上で、消費貸借契約の成立要件の検討をしましたが、順番としては、次に、有効要件の検討が必要となるものですが(有効要件については『民法でみる法律学習法』105-109頁を参照)、本問では、特に有効要件を検討すべき事実が含まれていませんので、有効要件の検討をする必要はありません。
そこで、次に、下線部(※4)を見ると、Bが、Aの代理人として、Cに対して、本件消費貸借契約の意思表示を行っていることがわかります。このことから、代理(有権代理)(効果帰属要件については『民法でみる法律学習法 第2版』110-111頁を参照)の法律要件を考える必要があります。代理(有権代理)の法律要件は以下となります(民法99条)。

(3)代理人による意思表示
(4)代理人が、(3)の際、本人のためにすることを示したこと(顕名)
(5)(3)に先立つ代理権の発生原因(代理権授与行為)

以上から、大枠の項目では、まず、以下のようになります。

第1 設問1
1 Cによる主張
Aの代理人であるBと締結し、Aに効果が帰属している消費貸借契約に基づく貸金
返還請求

Aの後見人に就任したBによる反論について

4.令和2年4月21日、Bは、家庭裁判所に対し、Aについて後見開始の審判の申立てをした。令和2年7月10日、家庭裁判所は、Aについて後見開始の審判をし、Bが後見人に就任した。そこで、CがBに対して【事実】3の貸金を返還するよう求めたところ、(※6)BはAから本件消費貸借契約締結の代理権を授与されていなかったことを理由として、これを拒絶した。

本件で、Cは、Aに対して請求を行っています。ただ、下線部(※1)の事実の記載のように、本件消費貸借契約の締結時において、Aの意識は戻っていませんでした。そこで、事実4で下線を引いた部分(※6)で記載されているように、Bとしては、代理権の発生原因(Aによる代理権授与行為)がなかったということで、返還を拒絶する反論をしています。すなわち、本件消費貸借契約に関する意思表示は、無権代理人であるBが行った無権代理行為に過ぎず、BC間の意思表示等で本件消費貸借契約が成立しているとしても、その契約の効果は、Aに帰属していないので、Cの請求は認められない(民法113条1項)との反論になります。

以上から、大枠の構成は以下のようになります。

第1 設問1
1 Cによる主張
Aの代理人であるBと締結し、Aに効果が帰属している消費貸借契約に基づく貸金
返還請求
2 Aの後見人Bによる反論
BがAのために行った代理人としての意思表示は無権代理行為であり、BC間で本件消費貸借契約は成立しているが、Aに効果は帰属していない

Cによる再反論

無権代理人であるBがCの請求を拒絶した行為について、事実3の(※5)で記載されているように、Bは受領した100万円をAの入院費用の支払に充てており、BがAの後見人に就任した以上、Cとしては、納得がいかないと考えるはずです。そこで、Cは、いわゆる無権代理人の後見人就任という論点の問題として、Bが行った無権代理行為の追認拒絶につき、信義則上、認められないとの反論を行うことが考えられます(信義則の機能については『民法でみる法律学習法 第2版』78-80頁を参照)。

以上から、ここまでの大枠の構成を考えてみると、以下のようになります。

第1 設問1
1 Cによる主張
Aの代理人であるBと締結し、Aに効果が帰属している消費貸借契約に基づく貸金
返還請求
2 Aの後見人Bによる反論
BがAのために行った代理人としての意思表示は無権代理行為であり、BC間で本件
消費貸借契約は成立しているが、Aに効果は帰属していない
3 Cによる再反論
後見人Bによる無権代理行為の追認拒絶につき、信義則違反となるために、追認拒絶は認められない旨の主張

Aの後見人に就任したBによる再々反論

Cの反論に対し、Aの後見人に就任したBは、無権代理行為の追認拒絶について、信義則違反となるものではないと反論することが考えられます。

以上から、全体の答案構成を考えてみると、以下のようになります。

第1 設問1
1 Cによる主張
Aの代理人であるBと締結し、Aに効果が帰属している消費貸借契約に基づく貸金返還請求
2 Aの後見人Bによる反論
BがAのために行った代理人としての意思表示は無権代理行為であり、BC間で本件消費貸借契約は成立しているが、Aに効果は帰属していない
3 Cによる再反論
後見人Bによる無権代理行為の追認拒絶につき、信義則違反となるために、追認拒絶は認められない旨の主張
4 Aの後見人Bによる再々反論
後見人Bによる無権代理行為の追認拒絶につき、信義則違反とはならず、追認拒絶が認められる旨の主張
5 結論
Cの請求が認められる
又は
Cの請求が認められない

以上、令和2年司法試験予備試験の民法の論文式試験問題の設問1を題材に、答案構成をしてみました。まず、事案の図式化があれば、事例がわかりやすく整理されていることから、答案構成をする際に間違った事実を基に論述をすることはなくなるはずです。このような図式化が答案構成にとても重要であることがわかってもらえたと思います。

そして、このように答案構成がしっかりできていれば、答案が6割方完成しているといっても過言ではなく、最終的な答案の作成作業は格段に楽なはずです(ここから先は、自身がどれだけの文字数をどれだけの時間で書き終えることができるか、といった把握などがとても重要になります。答案作成に関するポイントについては『民法でみる法律学習法 第2版』209-212頁のコラムを参照してみてください)。

民法でみる法律学習法 第2版』では、法律学の初学者が学ぶ機会がほとんどない事例の図式化の方法、そして、事例の図式化を踏まえた答案構成の方法を詳しく説明しています。ぜひ、本書を法律の勉強の一助としていただければ幸いです。

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金井高志(かない・たかし)
フランテック法律事務所代表弁護士・武蔵野大学教授。
1981年東京都立両国高等学校卒業。1985年慶應義塾大学法律学科卒業。1987年同大学大学院法学研究科修士課程修了(民事法学専攻LLM)。1989年弁護士登録(第二東京弁護士会)。1992年アメリカ・コーネル大学ロースクール修士課程修了(LLM)。1993年イギリス・ロンドン大学(クイーン・メアリー・カレッジ)大学院修士課程修了(商事・企業法専攻LLM)。