単位の授業 — 小学校ではどう教えられているか?(石原清貴)

6.量が分からない子どもたち
事例 1
3 年生の子ども何人かに
「牛乳瓶って,ミルクがどのくらい入っているの? 」
と聞くと,うまく答えられません.
「ほら,2dL じゃなかった? 」
と投げかけても,きょとんとしています.
「え,2 年生のとき,1dL マスを使ってお水を測らなかった? 」
と聞くと,
「1L マスは 1 回だけ使ったけれど,1dL マスって何? 使わなかったよ」
という返事が返ってきました.
事例 2
「1m2 あたり 3/4dL の濃さでペンキ塗りをします. 3 と 1/2m2 の壁にペンキを塗るには,全部で何 dL のペンキがいりますか? 」
というプリント問題を解いてもらいました.答を 21/8 と書いていたので,
「え? 単位はつけないの? 」
というと,しばらく考えて 21/8dL と書いたので,
「これって,どのくらいのかさなの? 」
と問い返しました.すると
「どういうこと? 」
と反対に聞き返されました.明らかに答を出したのに,なんで問い詰められるのか? という不満顔です.
「だって,21/8dL ってかさがイメージできないから,もっと分かりやすい言い方がないかな? 」
「…………」
返事がありません.
「ほら,帯分数って習ったと思うのだけど,覚えている? 」
「うん」
「21/8 を帯分数にしてみて」
「2 と 5/8 でいいのかな? 」
「正解.これに単位をつけるとどうなる? 」
「ええと,258dL かな? 」
「そう 1dL が 2 つと 58dL なんだ」
やっと顔が晴れ晴れとして,
「なんだ,そういうことだったんだ! 」
といって喜んでいました.
「でも,先生,学校では帯分数にはしなかったよ.仮分数のままでいいって教わったよ」
といいます.
「へえ,先生は帯分数にしないと求めたものがどのくらいなのかが分からないと思うのだけれども,あなたはどう思う? 」
と聞くと,
「うん.僕もそう思う.帯分数って,けっこう大事やったんや」
このような事例はいくつでも挙げることができます.
7.最後に
教科書中心&プリント学習中心主義はよくないという風に書きましたが,教科書会社各社の本を見ると,本当によく考えられています.確かに教科書だけで教えられるレベルにあると思います.また,市販のドリル練習帳の中には,教科書以上にうまく問題が配列されていたり,ときには唸らされる問題が組み込まれていたりします.
私がいいたかったのは,教科書をそのまま教える授業はよくないということです.教科書はその性質上,問題があり,図解があり,解き方の説明があり,答が載っています.しかし,それらは子どもが考えなければならない事柄でもあるのです.
教科書を使うには,そのまま使うのではなく,教科書の問題を修正して考えさせるなどの工夫が必要です.このことに関して, 1951 年 (昭和 26 年) の初めての学習指導要領試案の中で次のようにいっています.
教科書をそのままに教えることが、教科書を活用することにはならないのである。
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1954 年生まれ 香川県志度町出身 (現さぬき市) 元小学校教員・退職後「算数クリニック・石原算数教育研究所」を開設,算数数学で躓いた子どもたちのフォローをしたり youtube (石原清貴チャンネル) で算数教育法の動画配信を行ったりしている.
著書『算数を探しに行こう!--- 式」や「計算」のしくみがわかる五つの物語』(新潮社)・『算数少女ミカ 割合なんてこわくない』(日本評論社),『まるごと算数授業』(喜楽研) 監修など.