(第23回)情報公開原則を貫徹するための、解釈のスタンス(豊島明子)

私の心に残る裁判例| 2020.05.12
より速く、より深く、より広く…生きた法である“判例”を届ける法律情報誌「判例時報」。過去に掲載された裁判例の中から、各分野の法律専門家が綴る“心に残る判決”についてのエッセイを連載。
判例時報社提供】

(毎月1回掲載予定)

町議会議事内容録音テープ公開請求事件

地方自治法123条所定の会議録作成のために議会の議事内容が収録された録音テープが公開請求の対象として土庄町情報公開条例(平成12年土庄町条例第27号)2条2号に規定する「情報」に当たらないとされた事例

最高裁判所平成16年11月18日第一小法廷判決
【判例時報1880号60頁】

情報公開制度の解釈の核心は、公開原則の貫徹である。本判決は、このテーマを、情報公開制度における対象文書該当性(以下「対象文書性」)の判断をめぐり、考えさせてくれる。

本件は、決裁等の手続を経た情報を開示対象とする旨を定める情報公開条例を持つ町で、議会の議事内容の録音テープの対象文書性が争われた事件である。最高裁は、これを否定した原判決を破棄し、決裁等を経て確定される会議録を作成する際の基礎となる録音テープについて、会議録と同様に決裁等の対象になるとみて、会議録の決裁等の手続完了後には当該テープは実施機関が管理している限り公開対象になりうると判示した(しかし、本件では未だ議事録が作成されておらず、上告は棄却された)。

情報公開の実施機関において現実に情報があるのに法的にはそれが無いとされると、文書不存在による拒否処分がされる。このとき、物理的に存在する情報を法的には存在しないものとして扱う場面をいかに画するか、その解釈が問われる。ここで注目したいのは、本件の法廷意見と泉徳治裁判官による反対意見との相違である。反対意見は、録音テープについて、「機械的に正確性を担保され」ており、「議長から職務命令を受けた職員が議事場内で録音を終了した時点で、実質的に議長の決裁等の手続が終了したと評価するのが妥当」とし、会議録が決裁済みか否かにかかわらず対象文書性を肯定した。会議録と録音テープという記録媒体としての態様が異なる両情報を、法廷意見は一体的に捉えたが、反対意見は各々独立して捉えた点で、解釈のスタンスの対立がある。情報があるのに「無い」とする場面は、実施機関の恣意性が疑われやすく、また、問題構造がシンプルであるがゆえに市民感覚からも容認され難い。この点も踏まえると、「機械的に正確性が担保」される録音テープの実態に即した泉裁判官の解釈は、公開原則に相応しいスタンスと言えよう。

今ではごくわずかな例外を除き、国も地方も、実施機関の職員が職務上作成または取得し、組織的に用いるものとして当該機関が保有しているものを対象文書とする情報公開制度が普及しており、今後、本件と同じ枠組みで対象文書性が争われることはほぼ皆無である。しかし、物理的に存在する情報の対象文書性が問題となるケースは、形を変えて現れている。2017年、国家戦略特区での獣医学部新設をめぐり文部科学省が内閣府から伝えられた内容を記録したとされる文書について政府がその対象文書性を否定した例は記憶に新しいし、職員が送受信する電子メールのように、個人が管理するパソコンに存する情報と組織共有フォルダ内に保存される情報を法的にどう整理するかは、未だ解釈の定まらない論点である。公開原則に応えうる解釈の追求は、絶えざる課題である。


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豊島明子(とよしま・あきこ 南山大学大学院法務研究科教授)
1969年生まれ。名古屋大学法学部卒業、同大学院法学研究科博士後期課程単位取得退学。三重大学人文学部専任講師、助教授、南山大学総合政策学部准教授、同大学大学院法務研究科准教授を経て、現職。
著書に、『日本の法 第2版』(共著、日本評論社、2020年)、『自治体行政システムの転換と法-地域主権改革から再度の地方分権改革へ』(共著、日本評論社、2014年)、『地方自治のしくみと法』(共著、自治体研究社、2014年)、『住民参加のシステム改革-自治と民主主義のリニューアル』(共著、日本評論社、2003年)など。