(第7回)複素対数の神秘

数学の泉(高瀬正仁)| 2019.04.02
数学に泉あり。数学は大小無数の流れで構成されていて、今も絶え間なく流れ続けている雄大な学問ですが、どの流れにも源泉があり、しかもその源泉を作った特定の人物が存在します。共感と共鳴。数学の泉の創造者たちの心情と心を通わせることこそが、数学を理解するという不思議な体験の本質です。そこで数々の泉を歴訪して創造の現場に立ち会って、創造者の苦心を回想し、共感し、共鳴する糸口を目の当たりにすることをめざしたいと思います。

(毎月上旬更新予定)

$\def\bi#1{\boldsymbol{#1}}\def\dfrac#1#2{{\displaystyle\frac{#1}{#2}}}$

オイラーは負数と虚数の対数の本性の探究をめざす道すがら,等式
\begin{align*}
\log \sqrt{-1}=\frac{1}{2} \pi \sqrt{-1}
\end{align*}を報告し,これを「ヨハン・ベルヌーイの美しい発見」と呼びました.見るからに不思議な等式で,虚数の対数というものに特有の神秘的な印象がどこまでも際立っています.微積分で出会う対数関数 $\log x$ の場合には,変数 $x$ の変域は実数に限定されて,しかも $x>0$ という真数条件が課されるのが通常の姿です.対数関数の変数はつねに正で,負数の対数は考えてはならないというのがこの制限の主旨ですが,微積分の黎明期に立ち返ると,微積分の創造に携わった当人たちは負数の対数はもとより,虚数の対数さえ排除しようとはしませんでした.ライプニッツとヨハン・ベルヌーイの往復書簡を参照すると,$-1$ の対数 $\log (-1)$ や $\sqrt{-1}$ の対数 $\log \sqrt{-1}$ に実在感を抱き,積極的に数学に取り入れようとして二人して苦心を重ねていた様子がありありと目に浮かびます.長年にわたって論争めいたやりとりが続いたのですが,その理由は何かというと,負数や虚数の対数の正体がつかめなかったからでした.

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