気候変動への適応策を推進─気候変動適応法の制定

ロー・フォーラム 立法の話題(法学セミナー)| 2018.09.26
国会で成立する法律は数多くに及びますが、私たちの社会の制度変更に影響の大きい立法、私たちの生活に影響の及ぼすような立法など、注目の立法を毎月ひとつずつ紹介します。
月刊「法学セミナー」より、毎月掲載。

(毎中旬更新予定)

◆この記事は「法学セミナー」765号(2018年10月号)に掲載されたものです。◆

制定の背景

本年夏は、記録的な豪雨と猛暑により、様々な被害等が発生した。近年、高温による米や果実の品質の低下、大雨に伴う水害や土砂災害の増加、海水温の上昇等によるサンゴの白化や死滅など、全国各地において、地球温暖化その他の気候変動の影響が目に見えるようになってきている。

これまで、1998年に制定された地球温暖化対策推進法に基づく施策等により、温室効果ガスの削減の取組が行われてきた。しかし、上記のように、温暖化等の気候変動の影響を否定することができない事象が数多く発生する事態となっている。

このような状況を受け、気候変動の影響に対応して、現在生じており、また今後予測される被害の防止や軽減等を図る「気候変動適応」の必要性が指摘されるようになった。政府は、2015年に、気候変動適応計画を閣議決定により策定し、必要な措置を講じてきた。今般、気候変動適応を推進し、現在および将来の国民の健康で文化的な生活の確保に寄与するため、政府から「気候変動適応法案」が提出され、可決成立した(公布日〔本年6月13日〕から起算して6月以内の政令で定める日から施行)。

法律の概要

気候変動適応の推進に関し、国と地方公共団体の責務、事業者と国民の努力について規定し、それぞれが担うべき役割を明確にした。

政府に対し、気候変動適応に関する施策の総合的かつ計画的な推進を図るため、気候変動適応計画の策定を義務付けた。これは、従来の計画を法定計画に格上げし、充実強化を図るものである。

また、環境大臣は、おおむね5年ごとに、気候変動影響評価を行い、その結果等を勘案して気候変動適応計画の改定を行う。

国立研究開発法人国立環境研究所は、気候変動影響および気候変動適応に関する情報の収集・提供や、地方公共団体に対する技術的助言等を行う。

都道府県・市町村は、地域気候変動適応計画の策定に努めるとともに、気候変動影響および気候変動適応に関する情報の収集・提供等を行う拠点としての機能を担う地域気候変動適応センターの体制を確保するよう努める。

地方環境事務所その他国の地方行政機関、都道府県、市町村等は、広域的な連携による気候変動適応の推進のため、気候変動適応広域協議会を組織することができる。

今後の課題等

本法律により気候変動適応策が法的に位置付けられ、その充実強化が図られることになった。一方、温室効果ガスの削減は、今後も全力で取り組むべき課題であることに変わりはない。政府が強調するように、温暖化の「緩和策」と「適応策」は、車の両輪として推進される。

気候変動適応の具体的な課題は、農林水産業、水資源、生態系、自然災害等の様々な分野で発生する。環境省を筆頭に、農林水産省、厚生労働省など関係省庁の緊密な連携が必要になる。

また、気候変動が与える影響は、日本各地の地域ごとに実情が異なる。地域気候変動適応センターや気候変動適応広域協議会を通じて、各地域の実情に応じ、効果的な気候変動適応が着実に実施されることが期待される。

地域気候変動適応センターをバックアップする国立研究開発法人国立環境研究所の業務にも期待がかかる。温暖化による影響の予測は困難との指摘がある中で、研究所の収集する情報の整理分析とその提供によって、科学的根拠に裏付けられた気候変動適応策の立案が可能となる。

本法律の附則では、施行日前においても気候変動適応計画の策定等の準備行為を可能とする規定が設けられている。年内の施行に向けて、その準備が滞りなく行われることを望みたい。(S)

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