(第1回)弁護士が経営支援をする理由

「弁護士×経営支援」のススメ(中村 真)| 2018.09.27
2018年、ついに衰えを見せ始めた司法制度改革の残り火の中、益々過酷さを増す業界での生き残りを賭けて中小企業支援に乗り出した弁護士中村真。この連載は、一地方弁護士が法律業務と経営支援の狭間で目にした数々のドラマを、「弁護士×経営支援」を合い言葉に、各種方面の目を気にしつつも、ただ面白おかしく書き連ねる実験的な企画です。

(毎月上旬更新予定)

弁護士業の「いままで」と「これから」

弁護士の仕事をやってきて15年。思えば長い道のりでした。

法曹の数も急激に増え、我々の仕事環境も私が弁護士になったころと比べると大きく様変わりしましたが、変化の荒波は今も法曹界に押し寄せ続けています。

つい先日、私の行きつけの裁判所でもついに入庁検査が始まりました。一般の方は入庁時、金属探知機を通らされ、鞄の中を改められることになります。

我々弁護士も記章(バッジ)か身分証明書を提示しないと、裁判期日にも出頭できません。私を含め、弁護士にはなぜか普段バッジを着けない人が多いのですが、ここに来てバッジの価値が再び認識されています。

一昔前では考えられないことです。

変化の波に乗る

話を弁護士業務の方に戻しましょう。

不断の変化の中で居場所を確保しようとすると、常に自分自身も周りに合わせて変わり続けなければなりません。最近では、法律業務への人工知能活用の話題を耳にすることも多くなり、10年先どころか5年先の業界の行く末すら薄い靄がかかって見える始末です。

技術革新で世の中が良くなるのはすばらしいことなのですが、社会から問題・トラブルが減るということは、それだけ裁判や弁護士といった紛争処理システムが必要とされる場面が減ることを意味します。

弁護士の側の対応策として、紛争を増やす、紛争解決以外の分野に活路を見いだすという二つの方向性が出てくるのですが、どちらかというと後者の方が望ましそうです。

そんなわけで、極力変化を望まない私も、外部環境への対応力を高めて自分の居場所を守るべく、仕事の幅を広げるためのいろいろな取り組みを行っています。

そこで中小企業経営支援

その中の一つが中小企業経営支援業務への進出です。
「契約書を見て欲しい」「売掛金を回収したい」というのは、真っ当な弁護士であれば事業者から頻繁に相談を受ける内容で、弁護士の得意とする分野の問題です。

ところが大多数の弁護士は、「工場のレイアウトについて改善提案して欲しい」「新規事業のアイデア出しをしてもらえないか」といった相談を受けることはありません。

なぜでしょうか。

彼ら中小企業者は、「弁護士に経営や財務はわからない」という意識を経験的に持っているからです。彼らにとって、弁護士は紛争解決のツールであっても自分たちの事業をサポートする存在ではないのです。

我々が寿司屋でカレーを注文しないように、彼らも弁護士には残業代請求への対応は相談しても、残業を減らすような生産計画や労務管理は相談してはいけないのだと考えています。

我々の意識も似たようなもので、企業法務と企業経営を分けて考え、自分のホームグラウンドの中だけで勝負する姿勢が知らず知らずの間に身についています。

これは弁護士のリスク管理の視点からは正しいのですが、なにかトラブルが持ち上がらないとお声がかからないというのは勿体ない話です。

法務と経営の垣根を取り払うことができれば、弁護士の活躍の場はもっと広がるはずで、この視点はこれから重要になってきます。

なぜ弁護士×経営支援なのか

弁護士の業務拡大という点だけで見ると、なにも経営支援という分野に限る必要はなさそうに思えます。植木屋でも漫画家でも良いはずです。弁護士が経営支援に乗り出すべきもう少し積極的な理由付けの説明が必要かもしれません。

一言で言えば、弁護士業務と経営支援とで大きなシナジー(相乗効果)が得られるからです。

中小企業経営の目的である「事業利益の最大化」を達成するために求められる知識や経験則、姿勢は弁護士業務におけるそれとは大きく異なっていますが、両者の対象とする問題は、実は多くの部分で地続きの関係にあります。ここに弁護士のスキルや経験を活かす意味が出てくるのです。

企業の事業活動では、個々の経営上の判断をする上で、法的規制や法律に基づく解決など、法律問題に直面することが多くありますが、弁護士は普通、法律的な面からのアドバイスしか行えないので、相談した事業者は経営戦略と法的助言との間で立ち往生してしまうことがあります。

もしそこで、弁護士が法的なアドバイスと合わせて、事業利益最大化という視点からの助言や対案提示ができるようになれば、業務の質は大きく変わります。また、経営支援のスキルが一定程度身につけば、業務の入り口を法的問題に限る必要もなくなるのです。こうして弁護士は、紛争処理システム以外の存在意義を持つことになります。

弁護士業務は基本的に労働集約型の産業なので、本来の業務にまったく関係しない分野での無関連多角化はロスが大きく、結局はどちらかが疎かになってしまいます。

私が、弁護士に植木ばさみやGペンを持つように勧めないのはこういった理由からです。

この連載の目的

今回の「Web日本評論」での連載は、私が弁護士として中小企業経営支援に携わる中で感じたことや、弁護士であるが故に感じる難しさなどを取り上げ、面白半分に紹介することで、少しでも多くの方に弁護士×経営支援について興味を持ってもらうことを意図しています。

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中村 真(なかむら・まこと)
1977年兵庫県生まれ。2000年神戸大学法学部法律学科卒業。2001年司法試験合格(第56期)。2003年10月弁護士登録。以後、交通損害賠償案件、倒産処理案件その他一般民事事件等を中心に取り扱う傍ら、2018年、中小企業診断士登録。現在、民事調停官として執務する傍ら、大学院生として研究にも勤しむ身である。

著者コメント 連載第一回となる今回は、私が中小企業経営支援を業務の一分野とすることに決めた理由をテーマに取り上げました。法律の専門家であるがゆえに、弁護士が法律事務の「外」で直面する限界や歯がゆさを感じ取っていただけたらと思います。