「買い手の交渉力」の光と影:理論・実証・競争政策

海外論文サーベイ(経済セミナー)| 2025.07.30
 雑誌『経済セミナー』の "海外論文Survey" からの転載です.

(奇数月下旬更新予定)

Demirer, M. and Rubens, M.(2025)“Welfare Effects of Buyer and Seller Power,” NBER Working Paper, 33371.

哥丸連太朗

はじめに

私たちの周りには、多様な企業間取引が存在する。自動車メーカーが部品を調達する、スーパーマーケットが農産物を仕入れる、出版社が作家に執筆を依頼して原稿を取得する—こうした取引の場面では、必ず「買い手」と「売り手」が存在し、価格や生産量をめぐる交渉が行われる。この両者のうち、どちらがより「交渉力」を持っているかは、取引内容にとどまらず、市場全体の効率性や私たち消費者の利益に影響を及ぼす可能性がある。日本でも近年、牛乳の価格決定において生産者団体と乳業メーカーの力関係が注目されたり、米の価格が複雑な流通過程を経てどのように決まるのかが議論になったりするなど、買い手と売り手の関係性は、私たちにとって身近な問題である。

今回紹介する論文 (Demirer and Rubens 2025) は、まさにこの両者の力関係がいかにして市場に非効率性をもたらしているのか、という課題に取り組んだ研究である。

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