障害と法(川島聡)

法律時評(法律時報)| 2024.04.26
世間を賑わす出来事、社会問題を毎月1本切り出して、法の視点から論じる時事評論。 それがこの「法律時評」です。
ぜひ法の世界のダイナミズムを感じてください。
月刊「法律時報」より、毎月掲載。

(毎月下旬更新予定)

◆この記事は「法律時報」96巻5号(2024年5月号)に掲載されているものです。◆

1 はじめに

定価:税込 2,090円(本体価格 1,900円)

障害学や障害法学という新しい学問領域が地道に開拓されていることをご存じであろうか。障害学は障害者自身の不利益の経験と切実な主張とを基礎とする。1980年代に主に英米で登場し、次第に世界に広まった。日本では2003年に障害学会が設立された。昨年が20周年記念であった。障害法学は、2006年に国連総会で採択された障害者権利条約の影響を受け、世界的に近年急速に研究が進んでいる法学の一分野である。2016年には日本障害法学会が設立された。来たる10周年記念に向けて全3巻の講座本1)の出版も予定されている。

障害学も障害法学も障害(disability)を対象とする。では、障害とは何か。これは抽象度の高い難問だ。そこで、〈車いすを使用する下肢の機能に障害がある人が、レストランの前に段差があるため、レストランに入店できなかった〉という少し手触り感のある例を用いて答えると、実のところ、この一文の中には3つの障害の概念が含まれている。すなわち、障害の概念には(a)下肢の「機能障害」、(b)段差という「社会的障壁」、(c)入店が「制限」されているという「不利益」、という3つの意味が混在している。文脈に応じて、いずれかの意味で障害は用いられる(「制限」は「不利益」と基本的に互換可能な概念である)。

ただ、実定法の文脈では障害は機能障害又は制限を意味する。言い換えると、実定法上は障害が社会的障壁そのものを意味することはない。社会的障壁は、2011年に改正された障害者基本法によって、「障害がある者にとつて日常生活又は社会生活を営む上で障壁となるような社会における事物、制度、慣行、観念その他一切のもの」と定義されている。

ごく簡単な説明ではあるが、以上が「障害とは何か」という問いに対する一応の答えである。そして、この答えを踏まえた上で次に浮上するのが、「障害が発生する原因とは何か」、「障害をいかに解消すべきか」という問いだ。つまり、障害発生原因と障害解消方針が問われるわけだが、そこで念頭に置かれている障害は制限を意味する。以下では、障害発生原因と障害解消方針に着目し、障害と法との関係を考える。そして、最後に障害法学の課題に触れる。

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脚注   [ + ]

1. 日本障害法学会編『講座 障害法』全3巻(生活書院、2025年8月刊行予定)の執筆(予定)者は計54人を数える。論文の執筆者は、第1巻(総論)16人、第2巻(各論:憲法・行政法・民事法・刑事法)15人、第3巻(各論:教育法、労働法、社会保障法)13人であり、コラムの執筆者は10人である。編集委員は、第1巻は浅倉むつ子**、池原毅和、川島聡、河野正輝、第2巻は池原毅和、尾形健、角松生史、川島聡、平田厚、保条成宏、第3巻は浅倉むつ子、今川奈緒、河野正輝、長谷川珠子、永野仁美である(編集委員長、**副編集委員長)。詳細は日本障害法学会のホームページに掲載されている。