持ち家は子どもへのコミットメント?

海外論文サーベイ(経済セミナー)| 2024.03.28
 雑誌『経済セミナー』の "海外論文Survey" からの転載です.

(奇数月下旬更新予定)

Barczyk, D., Fahle, S. and Kredler, M.(2023) “Save, Spend, or Give? A Model of Housing, Family Insurance, and Savings in Old Age,” Review of Economic Studies, 90(5): 2116-2187.
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御子柴みなも

はじめに:住宅資産、高齢者介護、家族のつながり

老後の心配は尽きない。老後の資産、健康、自分の死後に残される人々など、悩みの種が多いからだ。これらの悩みと密接に関わるのが、住宅資産 (持ち家) である。今回紹介する論文 (Barczyk, Fahle and Kredler 2023) は、住宅資産が、高齢期における貯蓄、支出、遺産などの世代間移転に与える影響を、介護と家族に着目して分析した論文である。

持ち家は高齢者の (実物) 資産であるとともに、彼・彼女らの暮らしの基盤でもある。アメリカでは、住宅資産を保有する高齢者は、賃貸住宅で暮らす高齢者よりも資産水準が高く、資産を取り崩すスピードが緩やかである。図1 は、HRS (Health and Retirement Study) 1) を用いて、高齢者が死亡するまでの資産の推移をプロットしたものである。図 1 (a) と (b) ともに、調査時点 0 は死亡後に行われた最後の調査時点を示しており、亡くなるまで純資産がどのように推移したのかを示したものである2)。図 1 (a) は、亡くなる直前の調査での住宅資産保有状況によって分類された高齢者の純資産分布の推移を示しており、住宅資産を保有する高齢者は概して賃貸住宅で暮らす高齢者よりも裕福であることがわかる。また、図 1 (f) は、高齢者を 3 つのグループ (持ち家で暮らす人、持ち家を売却後に賃貸で暮らす人、はじめから賃貸で暮らす人) に分け、彼らの純資産の中央値の推移をプロットしたものである。住宅資産を保有する高齢者は亡くなるまで純資産の取り崩しをほとんど行わない一方、住宅資産の売却を機に純資産の取り崩しが発生することがわかる。

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脚注   [ + ]

1. HRS はアメリカで年 2 回、50 歳以上の人がいる世帯を対象に追跡して行われるパネル調査であり、この論文ではコアインタビュー (1998〜2010 年) とエグジットインタビュー (2004〜2012 年) を組み合わせてサンプルを構築している。
2. データの詳細は原論文を参照されたい。