ノーモア・ミナマタ2次訴訟判決――最終解決への道筋:大阪地裁2023(令和5)年9月27日判決(淡路剛久)

判例時評(法律時報)| 2023.11.27
一つの判決が、時に大きな社会的関心を呼び、議論の転機をもたらすことがあります。この「判例時評」はそうした注目すべき重要判決を取り上げ、専門家が解説をする「法律時評」の姉妹企画です。
月刊「法律時報」より掲載。

(不定期更新)

◆この記事は「法律時報」95巻13号(2023年12月号)に掲載されているものです。◆

 大阪地裁2023(令和5)年9月27日判決

1 はじめに

本年9月28日、日本全国の主要紙の朝刊は、こぞって一面トップで、前日の大阪地裁の判決を報じた。原告128人全員がすべて水俣病に罹患していることを認めた水俣病近畿訴訟の判決である。水俣病未認定患者が、疫学的立証を用い水俣病に罹患していると主張して、チッソ及び国と熊本県を被告として損害賠償を求めた事件である。判決は、疫学的立証を基礎として原告全員を水俣病と認定し損害賠償を認めたが、感覚障害のみの水俣病を認めたこと、その法的因果関係の立証方法として疫学的因果関係を認めたことなど、画期的といって良い注目すべき判決であった。

2 なぜ、また再び水俣病患者救済問題か

水俣病の公式発見(1956年)から67年経過したいまなお、水俣病患者救済問題が解決し得ていない。なぜだろうか。1969年に遡る。同年、公害健康被害救済制度(公健制度)がつくられた。その運用のために1971年環境庁事務次官通知(71年事務次官通知)が発出され、メチル水銀に汚染された魚介類の経口摂取(曝露)と、水俣病によって発症し得る症候(列挙されている)のいずれかの発生(発症)によって患者認定されるものとなっていた。患者認定申請者が増え続け、1977年、環境庁環境保健部長通知(77年判断条件)により認定基準が厳格化された。水俣病の症候の一つである感覚障害が水俣病以外の原因でも生じ得るとして、症状の組み合わせを要求することにより、感覚障害のみの被害者を患者認定の範囲から排除したのである。

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こうして認定棄却者が増加し、水俣病の病像と患者認定をめぐる問題は裁判所に持ち込まれた。水俣病二次訴訟、三次訴訟など多数の訴訟が争われた。国は、行政救済(公健制度)上だけでなく、司法の場においても77年判断条件を根拠として感覚障害のみの水俣病を否定した。これに対して司法は、77年判断条件を前提としつつもその適用を緩和するという判断の仕方で救済を広げていった。三次訴訟は六つの判決の後、1996年、政府解決策を基本とする和解により終了した。しかし、関西訴訟の原告は和解することなく訴訟を続け、大阪高裁判決(2001年4月27日)は、国、県の責任を認め、水俣病の判断基準につき、77年判断条件とは別個の基準(舌先二点識別覚の異常、家族内認定患者の存在等)により、四肢抹消優位の感覚障害のある者を水俣病と判断できると判示した。この判決を維持したのが2004年最高裁判決であり、同判決を契機として、多数の住民が被害者救済を求めて新たな訴訟を提起した(ノーモア・ミナマタ訴訟)。

このような事態に対して国が対応したのが、「水俣病特措法」1)の制定(2009年7月)と、ノーモア・ミナマタ訴訟の和解による解決(2011年3月)であった。しかし、「水俣病特措法」は申請期間が短かったこと(2年3か月)、申請者の居住地域が限定され、年令制限という線引きがあったこと、本人申請主義であったことなどにより、救済されない住民が多数生ずることになった。その後、2013年4月16日、公健法上の水俣病認定義務付け訴訟の最高裁判決が出て、「四肢末端優位の感覚障害のみの水俣病が存在しないという科学的な実証はない」、患者認定につき、「患者の原因物質に対するばく露歴や生活歴及び種々の疫学的知見や調査の結果等の十分な考慮をした上で総合的に行われる必要がある」との判断が示されたが、国は曝露歴について厳しい基準を明記し、かえって認定を難しくした。こうして、救済されなかった水俣病被害者が司法救済を求めたのが、ノーモア・ミナマタ2次訴訟である。今回判決となった近畿訴訟のほか、熊本地裁、東京地裁、新潟地裁(新潟水俣病)において、1653名の原告をかかえて争われている。争点の中心は患者認定問題であり、具体的には、感覚障害(四肢抹消優位の感覚障害及び全身性感覚障害)のみの水俣病があるかであり、立証方法として争われたのは、疫学調査と疫学研究(津田敏秀教授から提出された意見書等)である。

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脚注   [ + ]

1. 「水俣病被害者の救済及び水俣病の解決に関する特別措置法」(2009年7月5日)、申請期間は2010年5月~2012年7月。