(第2回)トカゲの尻尾

ただいま調査中! 家庭裁判所事件案内(高島聡子)| 2023.11.02
2024年度前期朝ドラ『虎に翼』のモデルとなった三淵嘉子が、その設立に関わることになる家庭裁判所。戦後まもなく産声を上げた、社会的弱者のための裁判所では、令和の今、どんなことが起きているのでしょうか? そして「家庭裁判所調査官」とは、どんなお仕事?
普段は手続非公開のベールに隠れている“中の人”が、リアルな現場の点景をお伝えします。
(事件はすべて、家裁に係属する事件の特徴を踏まえて創作した架空のものです)

(毎月上旬更新予定)

末端の一人

「本件詐欺の被害額は確かに高額であり、被害者も多数いる。しかし、真に罰すべきは少年に指図をした主犯であって、単なる受け子でしかない少年に長期間の身柄拘束を伴う厳罰を与えるのは、いわゆる『トカゲの尻尾切り』であって意味はない」

まずは少年事件の話から始めよう。この30年、減少の一途をたどる少年事件の中で、珍しく係属事件数が増加しているのが詐欺。その大半がカードすり替え詐欺などの特殊詐欺事件だ。2022年の特殊詐欺の認知件数は1万7570件、被害総額は370.8億円に上る(警察庁まとめ)。膨大な件数と金額だが、その一件一件に被害者がいて、加害者がいる。

家裁に送致されてくる少年の多くが末端の実行役、いわゆる「受け子(被害者からキャッシュカードなどを受け取る役)」や「出し子(そのカードでATMから現金を引き出す役)」だが、近年の特殊詐欺は恐ろしく分業化されていて、実行役である少年たちへの指示は時間が経てば消えてしまうメッセージアプリを介して行われ、黒幕が逮捕されることは少ない。

この手の事件で、付添人弁護士からよく主張されるのが冒頭の「トカゲの尻尾」理論である。いかにも現場で切り捨てられてジタバタしている感じだが、一方で何も考えていないようなニュアンスもあって、本当にそうかな、とも思う。

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高島聡子(たかしま・さとこ)
神戸家庭裁判所姫路支部総括主任家庭裁判所調査官。
1969年生まれ。大阪大学法学部法学科卒業。名古屋家裁、福岡家裁小倉支部、大阪家裁、東京家裁、神戸家裁伊丹支部、京都家裁、広島家裁などの勤務を経て2023年から現職。現在は少年、家事事件双方を兼務で担当。
訳書に『だいじょうぶ! 親の離婚』(共訳、日本評論社、2015年)がある。