(第58回)海賊版閲覧サイトのサイト・ブロッキングの法制化(濱野敏彦)

弁護士が推す! 実務に役立つ研究論文| 2023.09.25
企業法務、ファイナンス、事業再生、知的財産、危機管理、税務、通商、労働、IT……。さまざまな分野の最前線で活躍する気鋭の弁護士たちが贈る、法律実務家のための研究論文紹介。気鋭の弁護士7名が交代で担当します。

(毎月中旬更新予定)

大日方信春「サイト・ブロッキング法制化におけるプライヴァシー権と通信の秘密」

法律時報94巻10号(2022年)68頁~73頁より

いわゆる海賊版閲覧サイトによる出版業界、映像業界等の被害が深刻さを増している。

海賊版閲覧サイトとは、著作物を著作権者の許諾無しにインターネットを介して閲覧可能にしているウェブサイトの総称である。海賊版閲覧サイトによる被害を防止するための法改正も行われている。令和2年(2020年)の著作権法改正により、リーチサイト対策のための規定が新たに設けられた。

リーチサイトとは、自らのウェブサイトには侵害コンテンツ(違法にアップロードされた著作物等)を掲載せずに、侵害コンテンツをダウンロードすることができる海賊版閲覧サイトのリンク情報等を集約して、利用者を侵害コンテンツに誘導するウェブサイトをいう。また、リーチサイトと同様の機能を有するプログラムのことを、リーチアプリという。

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そして、令和2年(2020年)の著作権法改正により、リーチサイト・リーチアプリにおいて侵害コンテンツへのリンク提供等を行う行為について、リンク先が侵害コンテンツであることを知っていたか、知ることができたと認められる場合には、著作権等を侵害する行為とみなし、民事的請求(差止請求・損害賠償請求)を行うことができるようにするとともに、故意がある場合には刑事罰(3年以下の懲役等)を科すこと等を新たに規定する改正が行われた。

また、同様に、令和2年(2020年)の著作権法改正により、既に法整備されていた音楽・映像分野に限らず、著作物全般について、侵害コンテンツを、侵害コンテンツであると知りながらダウンロードする行為を、私的使用目的であっても違法化・刑事罰化する改正が行われた。

さらに、令和3年(2021年)のプロバイダ責任制限法の改正により、開示対象情報の範囲を拡大し、また、新たな裁判手続を創設するとともに、当該裁判手続において特定の通信ログの早期保全を可能とする改正が行われ、海賊版閲覧サイトの運営者を特定し易くなった。

これらの改正の他に、海賊版閲覧サイトによる被害を防止するための有効な方策として、インターネット接続業者に対して、海賊版閲覧サイトに対する閲覧防止措置(以下「サイト・ブロッキング」という。)を義務付ける法律を制定することが考えられる。しかし、サイト・ブロッキングについては、憲法学者等から通信の秘密を侵害するおそれがあるとの指摘がなされており、現時点では、インターネット接続業者に対して、海賊版閲覧サイトに対するサイト・ブロッキングを義務付ける法律は制定されていない。

政府は、2018年に、海賊版閲覧サイトによる被害の深刻さを踏まえて、インターネット接続業者に対して、海賊版サイトに対する閲覧防止措置の実施要請を行った。

この実施要請は、海賊版閲覧サイトによる被害を防止するための迅速な対応であるという観点から評価されるべき面がある一方で、法律に基づかない形でインターネット接続業者に対してサイトブロッキングの実施を要請することについては、法学者等からの批判があった。そのため、通信の秘密に配慮しつつ、海賊版閲覧サイトのサイト・ブロッキングを行うための法律の制定が望まれる。

本稿は、このサイト・ブロッキングと、通信の秘密との関係について考察し、海賊版閲覧サイトのサイト・ブロッキングを行うための法律が、通信の秘密の侵害に該当するか否かの判断基準を示している。

本稿では、通信の秘密の保護法益を、プライバシーと見る視点から、通信の秘密とプライバシーの関係を整理している。そして、プライバシーについて、最高裁判所がプライバシー保護について示した判例法理を3つに分類している。すなわち、①人格権(人格的利益)としてのプライバシー、②私生活上の自由としてのプライバシー、③情報の適正管理を求めるプライバシーに分類している。その上で、サイト・ブロッキングによって毀損されるプライバシーは、③情報の適正管理を求めるプライバシーであるとする。

そして、筆者は、インターネット接続業者に対して、海賊版閲覧サイトに対するサイト・ブロッキングを義務付ける法律が、憲法によって保護されている通信の秘密やプライバシーを侵害するか否かについて、大要、①サイト・ブロッキングが法律及びそれに基づく政令等によって法制度化されており、②サイト・ブロッキング以外の方法で有効に解決することができず、③サイト・ブロッキングの対象となるウェブサイトが悪質なものに限定されており、④ブロッキングのために利用される個人情報が限定されており、⑤目的外利用を制度として禁止する仕組みが法制度に組み込まれていれば、通信の秘密やプライバシーを侵害するものではないとしている。

このように、本稿は、サイト・ブロッキングと、通信の秘密との関係について考察し、海賊版閲覧サイトのサイト・ブロッキングを行うための法律が、通信の秘密の侵害に該当するか否かについての判断基準を示している。

憲法によって保護されている通信の秘密やプライバシーについての検討は、抽象的なものになってしまう傾向があるが、本稿は、通信の秘密、プライバシーについて分かり易く分析、及び、整理されており、実務的な観点から示唆に富む論考である。

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濱野敏彦(はまの・としひこ)
2002年東京大学工学部卒業。同年弁理士試験合格。2004年東京大学大学院新領域創成科学研究科修了。2007年早稲田大学法科大学院法務研究科修了。2008年弁護士登録(第二東京弁護士会)。2009年弁理士登録。2011-2013年新日鐵住金株式会社知的財産部知的財産法務室出向。主な著書として、『AI・データ関連契約の実務』(共編著、中央経済社、2020年)、『個人情報保護法制大全』(共著、商事法務、2020年)、『秘密保持契約の実務〈第2版〉』(共編著、中央経済社、2019年)、『知的財産法概説』(共著、弘文堂、2013年)、『クラウド時代の法律実務』(共著、商事法務、2011年)、『解説 改正著作権法』(共著、弘文堂、2010年)等。