(第2回)体の性決定・性分化のしくみ:男女の生殖器官はどのようにできるのか

ヒトの性の生物学(麻生一枝)| 2023.10.16
LGBTQ,少子高齢化,男女共同参画など,議論の的となっている社会テーマの多くは,ヒトの性と関係しています.「自分がどのようにして (how),自分になったのか」を知ることは,性的マイノリティの自己の確立に大きく影響し,また,年齢に伴う卵子や精子の老化は,私たちがどのようにキャリア形成とプライベートな生活 (結婚や家庭をもつなど) を両立していくかを考える上で,避けては通れない生物学的事実です.しかし現実には,様々な議論が,生物学抜きで,あるいは生物学の誤った解釈の下におこなわれており,責任ある立場の人々の誤った言説もあとを絶ちません.
このシリーズでは,私たちの人生に密接に関係する「ヒトの性に関する生物学的知見」を紹介していきます.

(毎月中旬更新予定)

私たち一人ひとりの始まり.それは,精子と卵子の合体した受精卵である.この受精卵から,どのようにして私たちの体はできあがっていくのだろうか.

「性染色体の組み合わせが XY であれば男になり,XX であれば女になる」ということは,誰しもどこかで聞いたことがあるだろう.思春期になると,性ホルモンの働きで第 2 次性徴とよばれる男女の体の違いが表れる,ということも,保健体育の授業で習ったはずだ.しかし,性染色体の組み合わせの違いがどこでどうつながって,つまり,性染色体の組み合わせの違いによって何が起こって,最終的に精巣と男性器をもつ男の体と,卵巣と女性器をもつ女の体がつくられるのだろうか.しくみを理解するのに必要な用語を見た後,男女の生殖器官がどのようにできていくのかを見ていこう.

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麻生一枝 サイエンスライター,成蹊大学非常勤講師. お茶の水女子大学理学部数学科卒業,オレゴン州立大学動物学科卒業,プエルトリコ大学海洋生物学修士,ハワイ大学動物学Ph.D. (研究テーマは魚類の性分化・性転換).「健全な科学研究における統計学や実験デザインの重要性」「ジェンダー研究における生物学の重要性」という 2 つのテーマで活動してきている.著訳書に『科学でわかる男と女になるしくみ』(SBクリエイティブ),『生命科学の実験デザイン』(共訳,名古屋大学出版会),『科学者をまどわす魔法の数字,インパクト・ファクターの正体---誤用の悪影響と賢い使い方を考える』(日本評論社),『データを疑う力』(東京図書出版) など.