国会議事堂見学記(編集部)

特集/国会を知ろう!| 2023.12.08
特集:国会を知ろう!
国会は主権者である国民を代表する選挙された議員による唯一の立法機関です。ですが、主権者である私たちは、普段なかなか、国会に関心を持つことができていないかもしれません。
現在の国会議事堂は、明治憲法下の帝国議会の時代から使用されていますが、この堅牢な建物で開かれている国会とはどのような機関なのでしょうか。国会ではなにが行われているのでしょうか。
Web日本評論編集部が現役の国会議員の話を聞き、国会議事堂内を見学してきたレポートを掲載します。

5 国会議事堂へ

議員会館から移動して、いよいよ、国会議事堂のなかへ向かいます!今回は、国会議事堂の参議院側を見学しました。

議員会館から議事堂までは、地下通路でつながっています。国会議員はふだん、この地下通路を通って登院します。永田町駅から衆議院議員会館・参議院議員会館、国会議事堂までつづく長い地下通路は撮影禁止で、保安上の理由から報道でも公開されていません。高良先生からお借りした通行証を警備員に見せて、通ることができました。

地下通路を抜けると、参議院の地下入口が見えてきました。入口には、登院表示盤があり、全議員の名前がありました。議員が登院ボタンを押すと、登院表示盤の名前にランプが灯ります。登院表示盤を見れば、国会本館にいまどの議員がいるかが一目でわかります。

地上に上がり、参観窓口で手続きをします。ここからは、制服を着た衛視の方が案内してくれます。

衛視:本日はどうぞよろしくお願いいたします。

3人:よろしくお願いします。

衛視とは、国会法114条に規定されている議員警察権の行使など、議院内の警備を行う国会職員のことです。国会参観の案内も、衛視の業務のひとつです。

6 国会議事堂の内装

国会議事堂の内装は、各地から集められた石材でつくられており、壁面、床、階段は、大理石で覆われています。のちほど紹介する中央広間は、壁に沖縄県産の珊瑚石灰岩が使われていて、貝やアンモナイトの化石を見ることができます。

中央広間壁のアンモナイトの化石

床には真紅の絨毯が引かれていて、絨毯の長さは議事堂全体で約4キロにも渡ります。高価なので、全面新調はせず傷んだところだけ張替えて、いちばん状態の良い絨毯は天皇陛下の御傍聴席のある3階に敷くそうです。

廊下へと続く赤い絨毯

衛視:国会の建設には、当時の国内の最高級の資材が使われました。しかし、当時の技術ではつくることができなかった3つのものだけは、外国製のものを使いました。なんでしょうか。

ろだん:シャンデリア?

兎先輩:エレベーター?

パンダちゃん:ステンドグラス?

衛視:ひとつ正解です。ステンドグラス、ドアノブの鍵、そして、ポストです。ステンドグラスはイギリス製、ドアノブの鍵とポストはアメリカ製です。各階の廊下にあるポストは現在も使われていて、投函された手紙は地下の集積場に貯まるようになっています。

郵便ポスト

7 いざ、議場へ!

まずは、議場に入っていきます。私たちが案内されたのは、議場2階の記者席です。私たちが見学したときは、議会は開かれていませんでした。議会が実施されているのを見学したいときは、「参観」ではなく、「傍聴」に申し込みましょう。記者席からは、議場全体を見渡すことができました。

記者席からみた議場

議場は、扇状に議席が並んでおり、各席には氏名標といわれる、議員の名前が書かれた黒い四角柱がありました。議員が議会に出席するときには、この氏名標を立てます。氏名標の脇には、さきほど、高良さんからご説明いただいた押しボタンがありました。

氏名標が置かれた議席

議場中央には、議長席があります。議長席の真下にあるのは速記席です。

議長席と速記席

議場の正面中央の、議長席の後ろは、幕で覆われていました。開会式では、この幕が開き、「御席」に天皇が座ります。議場後方には、天皇の「御傍聴席」がありますが、これまで使用されたことはないようです。議場を正面から見て、左右2階部分にはそれぞれ皇族席と貴賓席があります。皇族席には天皇以外の皇族が、貴賓席には外国からの要人が座ります。御傍聴席、皇族席と来賓席は衆議院にもありますが、天皇の「御席」があるのは参議院だけで、貴族院の名残が感じられます。

カーテンの後ろに天皇の御席がある

パンダちゃん:傍聴席や記者席の前にある模様はなんですか。

衛視:あの模様はそれぞれ、士農工商を表しています。国会議事堂がつくられた当時、士農工商の身分の違いを乗り越え、誰しもが平等に政治に参加することができるようにという願いから、このような模様が彫られました。

ろだん:国会議事堂が作られたときには、まだ社会に身分制度が色濃く残っていたんですね。

士農工商を表す模様

8 4人目は誰だ!?

国会議事堂は、二院制の象徴として左右対称になっています。

国会議事堂の外観

衆議院と参議院を挟んだ中央塔の真下にあたる広間が「中央広間」です。2階から6階部分まで吹き抜けになっていて、議事堂のなかで一番天井が高い場所です。

中央広間の天井

中央広間には、板垣退助、大隈重信、伊藤博文の銅像があります。

衛視:これらの銅像は、1938年につくられたもので、議会政治の実現の礎を築いた3人の功績を称えたものです。実は、銅像は3人分ですが、台座は4つあります。空席の台座はなにを表しているでしょうか。

パンダちゃん:置き忘れ?

衛視:4人目を決められず将来に持ち越されたといわれています。また、「政治に完成はない、未完の象徴」という意味もあるといわれています。

中央広間からは、「中央玄関」が見えます。中央玄関は、①天皇が議事堂に来るとき、②衆議院・参議院総選挙後の初登院のとき、③国賓が来るときにしか開かれません。普段は重さ1トンの扉は堅く閉ざされているため、「あかずの扉」と言われています。

9 天皇の「御休所」

中央広間から中央階段を上がると、天皇の御休所があります。開会式の当日、天皇は議事堂に到着するとここに入り、衆議院・参議院の議長、副議長と対面してから、式に臨むそうです。

御休所(ごきゅうしょ)

御休所前の廊下は、大理石のモザイクになっていて、5種類以上の大理石が使用されています。

御休所前の廊下のモザイク

10 国会見学の感想

兎先輩:国会議事堂の竣工は1936年、二・二六事件の年。衛視の方に説明していただいたのですが、明治憲法の時代、貴族院だった頃の名残を示す「見所」が多く、建物としての国会議事堂はやはり帝国議会の記憶を色濃く残しているものなのだな、と思いました。

現在の日本国憲法に基づく政治が行われる場としてのモチーフが何かないか探してみましたが、この日は見つけられませんでした。今度、憲政記念館ものぞいてみたいです。

ろだん:国会議事堂の荘厳さに圧倒されました。今このような建物を作ろうと思っても、難しいでしょうね。バリアフリーなどにするべきところは対応しつつも、大切に維持されていくとよいなと思いました。このような場所で働く国会議員には、国会の歴史の重みを感じて、責任ある仕事をしてほしいです。

兎先輩:議場は威厳にあふれていて、高い天井や臙脂色の絨毯、美しいモザイクなどはとても厳か。トイレも雰囲気のある佇まいでした。戦前は女性も議会を傍聴できたんだろうか、女子トイレはいつからあるんでしょう、と衛視の方に聞いてみたところ、建物ができたときからあるのではないか、とのことでした。

女性が選挙権を得るのは1945年で、翌年に初の女性の国会議員が出るけれど、大正時代、参政権を求めて女性たちが貴族院に要請に行ったという話を読んだので、もう少し調べてみたいと思いました。

パンダちゃん:衛視の方の説明はとてもわかりやすく、質問にもとても丁寧に答えていただきました。衛視は、警察官と見間違うような格好をしていますが、警察官ではありません。行政組織である警察が立法府である国会の警備にあたると、行政府のトップである内閣の影響を受けかねないため、国会職員である衛視がその任にあたるそうです。衛視の存在に、三権分立の原則を感じることができました。

ろだん:国会議事堂とその周辺は警備が厳重で、通行証がないとは入れない場所、通行証があっても入れない場所ばかりでした。わたしたち国民の代表が議論する場所であるのに、建物自体はひらかれていない印象を持ちました。

国会傍聴に行くことで、国会議員が国民の代表として責任ある仕事をしているか確認することも大切だと感じました。国会見学や傍聴は、国民が政治に参加する意識を持つ、ひとつのきっかけになると思います。

パンダちゃん:国会議事堂見学をしてみて、議場が議員で埋まっている様子を見たくなりました。国会議事堂に行かずとも、テレビ中継等で国会を見ることはできますが、カメラには写っていない議員の様子を観察したり、議場内の空気感を味わうためにも、ぜひ一度、傍聴に行ってみようと思います。

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