(第55回)「将来の権利の処分」の法理と新たなファイナンス手法の可能性(有吉尚哉)

弁護士が推す! 実務に役立つ研究論文| 2023.06.19
企業法務、ファイナンス、事業再生、知的財産、危機管理、税務、通商、労働、IT……。さまざまな分野の最前線で活躍する気鋭の弁護士たちが贈る、法律実務家のための研究論文紹介。気鋭の弁護士7名が交代で担当します。

(毎月中旬更新予定)

和田勝行「将来の権利の処分に関する予備的考察-ドイツの近時の議論状況を参考にして」

法律時報95巻4号(2023年4月号)43~49頁より

債務者の事業活動によって生じることが期待される将来のキャッシュフローを(優先的に)引当てとするファイナンスが実施されることがある。例えば、プロジェクトファイナンスは特定のプロジェクト(事業)に対するファイナンスであると同時に返済原資を当該プロジェクトからの収益に限定するファイナンス手法であり、プロジェクトから生じる将来のキャッシュフローを引当てとするものといえる。また、不動産の流動化についても、特定の不動産の賃料収入や売却代金から返済を受けることを期待するファイナンス手法であり、不動産事業によって生じる将来のキャッシュフローを引当てとするものと評価することもできよう。このようなファイナンス取引においては、将来のキャッシュフローの源泉となる事業(を構成する資産)や不動産を法的に「把握」することにより、将来のキャッシュフローを引当てとすることが可能となる。

法律時報95巻4号 定価:税込 1,925円(本体価格 1,750円)

近時、より多様な形で債務者の将来のキャッシュフローを把握し、効率的な資金調達・与信を実現しようとする取組みが検討されることがある。そのような場面で利用されうる法的ツールの一つが将来債権譲渡(譲渡担保)である。キャッシュフローを生み出す有形資産の把握が難しい場合でも、将来債権譲渡により将来のキャッシュフローを引当てとするファイナンスが実現できる場合がある。将来債権譲渡は、2020年4月に施行された民法改正(債権法改正)により民法に明文の規定が設けられた手法であるが、改正前の民法の下においても、判例によりその有効性が認められており、実務上、各種金融取引における譲渡担保やカード債権の流動化取引などにおいて広く用いられている。もっとも、将来債権譲渡によりいかなる権利が譲渡されるのか、将来債権譲渡と契約上の地位の移転あるいは組織再編行為が競合した場合や将来債権譲渡の譲渡人に法的倒産手続が開始した場合の譲受人の権利はどのようになるのか、といった点は解釈が確立していない状況にあり、この点は債権法改正によっても特段の規定は設けられなかった。そのような意味では、将来債権譲渡を新たな類型のファイナンスに利用して、その「ポテンシャル」をさらに発揮させることがしにくい状況にある。

本稿は、京都大学の和田勝行教授(本稿の刊行時は准教授)が、ドイツ法における将来債権譲渡に関する近似の議論状況を紹介し、その議論をもとに「将来の所有権その他の財産権」の処分の可能性や日本法への示唆を考察するものである。その中で、ドイツ法の下では、将来債権譲渡の法的構造として、(将来において現に発生する債権の)事前譲渡モデルと、(「債権を将来取得する見込み」として捉えられる「将来債権」の)現在譲渡モデルの2つの理論モデルの存在が指摘されると紹介する。そして、このモデルの違いが意味を持ちうる場面として、将来債権の譲渡と契約上の地位の譲渡が衝突する場面があげられている。また、将来債権譲渡の譲渡人が倒産した場合については、「倒産手続内で初めて将来債権譲渡の対象債権が発生した場合……倒産債務者又は倒産管財人の行為により財団財産(つまり、倒産債権者に割り当てられた価値)を投入して発生させられた(又は貫徹可能性を付与された)債権は倒産財団に帰属しなければならない、という実質的判断にはほぼ一致がみられる」ものの、この問題は「将来債権譲渡の法的構造論自体からは、結論は導けないと解されている」ことが注目されるとしている。将来債権譲渡に関して、ドイツ法においても、日本法におけるのと近しい問題設定が検討されていることは興味深い。

「将来債権譲渡」という手法が共通しているとしても、ドイツ法と日本法とで同じ解釈が妥当するとは限らない。もっとも、ドイツ法の下での共通する問題意識に関する議論は、日本法の下での解釈論の視点として参考になるものといえよう。この点、我が国の学説においても類似する議論はなされているが、ドイツ法の下で、事前譲渡モデルと現在譲渡モデルという2つのモデルの可能性を明確に整理して解釈が展開されていることや、倒産の局面においては倒産法の法理を全面的に適用して将来債権譲渡の効果が整理されていることは、日本法の下で将来債権譲渡の限界を探るために手がかりになるものといえる。そのため、本稿が将来債権譲渡に関するドイツの学説の状況を的確に整理し、日本法への示唆を考察していることは、学問的な意義にとどまらず、将来のキャッシュフローを把握するファイナンスの実務の可能性を広げるものとして有益なものであると考えられる。加えて、将来債権譲渡に関する議論をもとに本稿が論じる将来の権利の処分の法理は、新たな類型のファイナンス手法につながる可能性を有するものである。近時、制度面でも動産・債権を目的とする担保法制の見直しについて法制審議会で議論が進められているが、本稿を一助として、実務において将来のキャッシュフローを引当てとするファイナンスのさらなる創意工夫が促されることを期待したい。

本論考を読むには
・法律時報95巻4号 購入ページ
TKCローライブラリー(PDFを提供しています。次号刊行後掲載)


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有吉尚哉(ありよし・なおや)
2001年東京大学法学部卒業。2002年西村総合法律事務所入所。2010年~11年金融庁総務企画局企業開示課専門官。現在、西村あさひ法律事務所パートナー弁護士。金融審議会専門委員、金融法学会理事、金融法委員会委員、財政制度等審議会臨時委員、日本証券業協会「JSDAキャピタルマーケットフォーラム」専門委員、武蔵野大学大学院法学研究科特任教授、京都大学法科大学院非常勤講師。主な業務分野は、金融取引、信託取引、金融関連規制等。主な著書として、「金融機関に求められるSDGs・ESGの視点」『SDGs・ESGとビジネス法務学』(武蔵野大学出版会、2023年)、「担保取引の機能と比較した証券化取引の機能」『現代の担保法』(有斐閣、2022年)、『論点体系金融商品取引法1~3〔第2版〕』(第一法規、2022年、編集協力・共著)、『資産・債権の流動化・証券化〔第4版〕』(金融財政事情研究会、2022年、共編著)、『実務問答金商法』(商事法務、2022年、共著)等。論稿多数。