土地法制の現在と将来(松尾弘)

法律時評(法律時報)| 2023.05.29
世間を賑わす出来事、社会問題を毎月1本切り出して、法の視点から論じる時事評論。 それがこの「法律時評」です。
ぜひ法の世界のダイナミズムを感じてください。
月刊「法律時報」より、毎月掲載。

(毎月下旬更新予定)

◆この記事は「法律時報」95巻6(2023年6月号)に掲載されているものです。◆

1 持続可能な地域社会の形成

定価:税込 2,035円(本体価格 1,850円)

令和5(2023)年4月27日、「相続等により取得した土地所有権の国庫への帰属に関する法律」(令和3年法律25号)が施行された。同法は、相続や遺贈によって相続人等が取得した土地の所有権または共有持分権を、一定要件の下で、国に移転する申請を認めるものであり、明治初年に日本が土地の私的所有権制度を導入して以来初となる、画期的な制度である。これは、すでに一部施行が始まっている「民法等の一部を改正する法律」(同年法律24号)による民法、不動産登記法等の改正とともに1)、人口減少、高齢化、地価下落などによって利用・管理が困難となり、所有者不明化が進む土地への対応策であり、その効果が注目される。これらの立法は、それに先立つ令和2年の改正土地基本法の理念を具体化するものであることが重要である。すなわち、同法は「国及び地方公共団体は、…所有者不明土地(相当な努力を払って探索を行ってもなおその所有者の全部又は一部を確知することができない土地をいう。)の発生の抑制及び解消並びに円滑な利用及び管理の確保が図られるように努めるものとする」(13条5項)とした。それは、土地の利用および管理をめぐる所有者、その他の権利者、国および地方公共団体の責務を明確にすることを通じて、地価の上昇にも下落にも対応可能な強靭な土地法制を構築することにより、「地域の活性化及び安全で持続可能な社会の形成」(同法1条)を図ることを目的とするものである。それは「土地基本方針」(同法21条)に基づいて具体化される。今や、日本の土地法制は、この理念の実現に向けた方策を実施する段階に入った。

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脚注   [ + ]

1. 令和5(2023)年4月1日施行。ただし、相続登記の義務化に関する改正法は令和6(2024)年4月1日施行、住所変更登記の義務化に関する改正法は公布(令和3年4月28日)後5年以内の政令で定める日に施行される。