(第2回)欧州のエネルギー脱ロシア依存の進捗状況(田中理)

ヨーロッパの直面するエネルギー危機| 2023.01.13
2022 年 2 月、ロシアがウクライナに侵攻したことにより、世界的にエネルギー価格が上昇する事態となりましたが、その中でも最も深刻な影響を受けているのがヨーロッパです。エネルギー危機に直面し大混乱に陥っているヨーロッパは、今後も脱炭素化・EV化を進めていくことができるのでしょうか。また深刻なインフレや財政・金融の問題にも注目が集まります。4名の EU 研究者が読み解いていきます。

(全 10 回の予定)

エネルギーの脱ロシアを急ぐ欧州

2022 年 2 月のロシアによるウクライナ侵攻は、エネルギー資源をロシアに依存する欧州連合 (EU) の脆弱性を露呈した。戦争開始以前、EU は域内で消費する原油の 97%、天然ガスの 90%、石炭の 70% を輸入に頼り、その何れもロシアが最大の供給元となっていた。エネルギーの安定供給を確保することを優先し、EU による対ロシア制裁は当初、エネルギー分野での踏み込み不足が目立った。だが、ウクライナでの人道被害の拡大を受け、EU はロシア向け制裁を段階的に強化すると同時に、エネルギー供給の脱ロシア依存を加速している。

ドイツ政府は 2022 年 2 月にロシアとドイツを結ぶ天然ガスのパイプライン「ノルドストリーム 2」の承認手続きを凍結することを決定した。さらに、EU の行政執行機関である欧州委員会は 3 月、ロシア産化石燃料依存の解消を目指す「リパワー EU」計画の概案や、ガスの共同調達に関する政策文書、加盟国にガス備蓄を義務付ける規則案を公表した。リパワー EU 計画では、省エネに向けた市民の行動変容、住宅部門のエネルギー効率改善やヒートポンプの普及、産業部門でのエネルギー効率改善、ガス調達の多様化、バイオメタン・水素・太陽光・風力発電の利用促進などを通じて、2030 年までに少なくとも 1840 億立法メートル相当のロシアからの天然ガス輸入を代替することを目指す。11 月には、再生可能エネルギーの関連施設の整備に当たって、環境評価の一部を免除するなど、審査手続きを簡素化する規則案を公表した。また、ガス備蓄の関連規則は 7 月に施行され、冬場の需要期に備え、ガスの地下貯蔵施設を持つ加盟国に対して、毎年 11 月 1 日までにガス貯蔵施設の貯蔵率を 90%まで引き上げることを義務付けた。

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田中理(たなか・おさむ)
第一生命経済研究所主席エコノミスト
1997 年慶應義塾大学法学部卒、日本総合研究所入社、調査部にて米国経済・金融市場を担当。その間、日本経済研究センターに出向。2001年モルガン・スタンレー・ディーン・ウィッター証券(現:モルガン・スタンレー MUFG 証券) 入社、株式調査部にて日本経済担当エコノミスト。海外大学院留学 (バージニア大学経済学修士・統計学修士) を経て、2008 年クレディ・スイス証券入社、株式調査部にて日本株担当ストラテジスト。2009 年第一生命経済研究所入社、2012 年より現職。2015〜2020 年多摩大学非常勤講師。
共著に『デジタル国家ウクライナはロシアに勝利するか』(日経 BP)、『コロナ禍と世界経済』(きんざい)、『EUは危機を超えられるか---統合と分裂の相克』(NTT出版)。