(第10回)現象を単純化して数式で表したのが数理モデル:予測には幅をもたせるのが普通

コロナと数字と科学:ニュースに右往左往しないためのリテラシ(麻生一枝)| 2023.01.17
新型コロナ感染症に関する報道をはじめ,私達は,日々膨大な「データ」や「グラフ」や「科学用語」に接しています.しかし,ともすると,深く考えないまま鵜呑みにしてしまう危険性が常につきまとっています.この連載では,「データ」や「グラフ」を解釈するときのキーとなる基本的な考え方について紹介してゆきます.

(毎月中旬更新予定)

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2020 年 4 月半ば、「何も感染対策をしなかったら、新型コロナウイルスへの感染により日本全体で約 85 万人が重症となる。そのうちの約半数が死亡する」という、数理モデルを使った感染予測が発表された。「42 万人死亡」という衝撃的な見出しが日本中を駆け巡ったので、2 年半以上たった今でも覚えている方もいることだろう。

さて、皆さんはあのニュースをどのように受け止めただろうか。「国立大学の教授が言っているのだから本当だろう」と、何も考えずに受け入れた人もいるだろう。「こんなにピタっとした数字で、予測できるものかなあ」と疑問に思った人もいただろう。どのようにして 85 万という数字が出てきたのか、その計算プロセスを知りたいと思った人もいただろう。

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麻生一枝 サイエンスライター,成蹊大学非常勤講師.お茶の水女子大学理学部数学科卒業,オレゴン州立大学動物学科卒業,プエルトリコ大学海洋学科修士,ハワイ大学動物学Ph.D. 専門は動物行動生態学.「統計や実験デザインの理解は健全な科学研究に必須である」という信念のもと,これらの教育の普及に熱意を持って取り組む.著訳書に『科学でわかる男と女になるしくみ』 (SBクリエイティブ),『実データで学ぶ,使うための統計入門 ---データの取りかたと見かた』(共訳,日本評論社), 『生命科学の実験デザイン』(共訳,名古屋大学出版会),『科学者をまどわす魔法の数字,インパクト・ファクターの正体---誤用の悪影響と賢い使い方を考える』(日本評論社)など.