観光は経済発展を促進するのか?

海外論文サーベイ(経済セミナー)| 2022.11.29
 雑誌『経済セミナー』の "海外論文Survey" からの転載です.

(奇数月下旬更新予定)

Faber, B. and Gaubert, C. (2019) “Tourism and Economic Development: Evidence from Mexico’s Coastline,” American Economic Review, 109(6): 2245-2293.

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山岸 敦

はじめに

やや逆説的だが、コロナ禍での観光業の停滞こそ、経済における観光の重要性を私たちが痛感するきっかけとなったかもしれない。コロナ禍以前の日本で観光業は名目 GDP の約 $7\%$ (2019 年) を占めていた。この数値でも国際的にはむしろ低い方で、たとえばメキシコやスペイン等は $15\%$ 程度であった1)。コロナ禍以前の観光業は非常に高い成長率を誇っていた。たとえば、図1 (a) に示したように、訪日外国人数が 2010 年代に急増したことは記憶に新しい。ところが、新型コロナウイルス感染症のパンデミックによって世界の平穏が失われると観光、特に海外観光は一気に止まってしまう。事実、1 年間を通じてコロナ禍にあった 2021 年の訪日外国人旅行者数は、実質ゼロと言っていい水準にまで落ち込んだ (図1 (a)参照)。国内旅行もそこまでではないにしろ、コロナ禍以前の半数程度の旅行者数にとどまっている (図1 (b) 参照)。新型コロナウイルス感染症のパンデミックという 1 つのイベントだけでこれだけの GDP が吹き飛んでしまうと考えると、観光業の経済的重要性 (および有事における脆弱性) が伺えるだろう。

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脚注   [ + ]