(第9回)母集団の違いは重要:外国の臨床試験結果をそのまま日本に適用することはできない

コロナと数字と科学:ニュースに右往左往しないためのリテラシ(麻生一枝)| 2022.12.14
新型コロナ感染症に関する報道をはじめ,私達は,日々膨大な「データ」や「グラフ」や「科学用語」に接しています.しかし,ともすると,深く考えないまま鵜呑みにしてしまう危険性が常につきまとっています.この連載では,「データ」や「グラフ」を解釈するときのキーとなる基本的な考え方について紹介してゆきます.

(毎月中旬更新予定)

統計の基本:ある集団から得られた結果は、それ以外の集団には適用できない

まずは、仮想の臨床研究の要約から始めよう。

ザクロなどを食べた時に腸内細菌によって作られるウロリチン A が筋肉の機能に及ぼす影響を調べるため、次のような実験を行った。

40 歳から 64 歳の日本人男性参加者を 200 名募った。集まった 200 名をランダムに 2 つのグループに分け、片方にはウロリチン A を含んだソフトジェルを (実験群)、もう片方にはウロリチン A を含まない偽のソフトジェルを (対照群)、朝食前に毎日一錠、4 か月間飲んでもらった。実験開始時と終了時に骨格筋 (ハムストリング) の強さを測定し、筋力の増加量を実験群と対照群で比較した。すると、統計的に有意な筋力の増加が実験群で認められた。

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麻生一枝 サイエンスライター,成蹊大学非常勤講師.お茶の水女子大学理学部数学科卒業,オレゴン州立大学動物学科卒業,プエルトリコ大学海洋学科修士,ハワイ大学動物学Ph.D. 専門は動物行動生態学.「統計や実験デザインの理解は健全な科学研究に必須である」という信念のもと,これらの教育の普及に熱意を持って取り組む.著訳書に『科学でわかる男と女になるしくみ』 (SBクリエイティブ),『実データで学ぶ,使うための統計入門 ---データの取りかたと見かた』(共訳,日本評論社), 『生命科学の実験デザイン』(共訳,名古屋大学出版会),『科学者をまどわす魔法の数字,インパクト・ファクターの正体---誤用の悪影響と賢い使い方を考える』(日本評論社)など.