振り上げた「拳」の大きさ : 東京地裁令和4年7月13日判決 (東京電力ホールディングス株主代表訴訟)(山田泰弘)

判例時評(法律時報)| 2022.10.06
一つの判決が、時に大きな社会的関心を呼び、議論の転機をもたらすことがあります。この「判例時評」はそうした注目すべき重要判決を取り上げ、専門家が解説をする「法律時評」の姉妹企画です。
月刊「法律時報」より掲載。

(不定期更新)

◆この記事は「法律時報」94巻11号(2022年10月号)に掲載されているものです。◆

 東京地裁令和4年7月13日判決
(東京電力ホールディングス株主代表訴訟)

1 はじめに

2011年3月11日の東北地方太平洋沖大地震により発生した巨大津波が、東京電力株式会社(商号は当時。現在は東京電力ホールディングス株式会社。以下「東電」とする)が設置する福島第一原子力発電所を襲った。電力喪失した原子炉で生じた炉心崩壊等により放射性物質が大量に飛散し(以下「本件事故」とする)、地域や地域住民に大きな損害を現在進行形でもたらしている。原子力損害賠償法のスキームは、これらの損害につき東電が無過失責任を負担する形で損害賠償義務を集約化し(同3・4条)、国は電力会社との補償契約の履行としての補償(同10条)、東電への「援助」(同16条)や措置(同17条)により救済に関与するとされている。東電は、福島原発廃炉費用、融解した核燃料デブリの冷却水などの汚染水の対策費用、放射性物質の除染や除去物の中間貯蔵対策費用とともに、被災者に対する多額の損害賠償義務を負担する。2012年3月5日に東電株主代表訴訟原告団は、事故当時の代表取締役会長・社長、原子力事業を担当する取締役ら5名に対し、本件事故に関する任務懈怠責任を問う株主代表訴訟を提起した。これに対し東京地方裁判所は2022年7月13日に、2008年から2009年にかけて津波に関する学術的な長期評価を認識し得た被告取締役4名に対し13兆3210億円の東電に対する賠償を命じた(以下、「本判決」とする。被告のうち2010年6月に取締役に就任し同年7月に長期評価を認識し得た者にはその時点でとりうる対策を一定していたとしても本件事故を回避し得たであろうとはいえず損害との因果関係が否定されている)1)

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脚注   [ + ]

1. 判決文の全文は、東電株主代表訴訟原告団の公式ブログからダウンロードできる。