(第40回)パブリシティに関する実務対応(濱野敏彦)

弁護士が推す! 実務に役立つ研究論文| 2021.12.22
企業法務、ファイナンス、事業再生、知的財産、危機管理、税務、通商、労働、IT……。さまざまな分野の最前線で活躍する気鋭の弁護士たちが贈る、法律実務家のための研究論文紹介。気鋭の弁護士7名が交代で担当します。

(毎月中旬更新予定)

茶園成樹「パブリシティ権の現状と課題」

コピライト60巻708号(2020年)2頁~19頁より

有名なプロスポーツ選手が他チームに移籍すると、膨大な数のユニフォームが売れる。このことは、スポーツ選手、芸能人等の有名人の名前、肖像等が付された商品には、顧客吸引力があることを示している。そして、このような顧客吸引力を排他的に利用する権利として、判例法によって「パブリシティ権」が形成されてきた。ピンク・レディー事件最高裁判決(最判平成24年2月2日民集66巻2号89頁)において、「肖像等は、商品の販売等を促進する顧客吸引力を有する場合があり、このような顧客吸引力を排他的に利用する権利(以下「パブリシティ権」という。)は、肖像それ自体の商業的価値に基づくものであるから、上記の人格権に由来する権利の一内容を構成するものということができる」と判示されている。

しかし、パブリシティ権は、法律で規定されている権利ではないため、実務においては、解釈が容易ではない場合も多い。

本稿は、パブリシティ権の法的性質を踏まえて、ピンク・レディー事件最高裁判決を中心に分かり易く説明するとともに、現在も残されている課題について考察している点において、実務的な観点から示唆に富む論考である。

本稿では、パブリシティ権の法的性質についての学説である財産権説と人格権説の対立を分かり易く説明している。

財産権説は、パブリシティ権は財産権であり、人の氏名や肖像は人格的側面と財産的側面を有し、パブリシティ権は後者を保護するものであるとするのに対して、人格権説は、パブリシティ権は人格権であり、人格権が人格的側面と財産的側面の両方を保護するものであるとする。

その上で、財産権説によれば、①差止請求を否定し、②譲渡可能性を肯定し、③相続可能性を肯定し、④物のパブリシティを肯定する方向で考えることになるのに対して、人格権説によれば、①差止請求を肯定し、②譲渡可能性を否定し、③相続可能性を否定し、④物のパブリシティを否定する方向で考えることになると説明している。

そして、ピンク・レディー事件最高裁判決は、「人格権に由来する権利」という表現を用いているため、パブリシティ権を人格権として捉えていると解されるとする。

また、ピンク・レディー事件最高裁判決では、パブリシティ権の侵害を、「専ら肖像等の有する顧客吸引力の利用を目的とする場合」とした上で、①肖像等それ自体を独立して鑑賞の対象となる商品として使用する場合、②商品等の差別化を図る目的で肖像等を商品等に付す場合、③肖像等を商品等の広告として使用する場合を挙げた上で、「など」としているので、これらの3類型は例示であるものの、「最高裁は侵害行為を具体的に示すことによって予測可能性を向上しようとしたと思いますから、その趣旨からすると、3類型以外に侵害が認められることは極めて例外的であ」ると指摘している。

さらに、権利の客体に関して、米国において、テレビ番組に出演する芸能人がよく用いている決め台詞をパブリシティ権の対象とした裁判例があることを説明した上で、日本では、ピンク・レディー事件最高裁判決は、「個人の人格の象徴であること」を根拠としてパブリシティ権を認めているのであり、日本のパブリシティ権は人を想起させるものであれば保護が及ぶといった広い範囲をカバーするものではないため、決め台詞にはパブリシティ権が認められないと解されるとしている。

本稿では、ピンク・レディー事件最高裁判決以後の現在においても残されている問題として、パブリシティ権の利用許諾の可否を挙げている。即ち、ピンク・レディー事件最高裁判決がパブリシティ権を人格権として捉えていると解されるため、パブリシティ権を譲渡することはできないと解されることを踏まえて、パブリシティ権を利用許諾することが可能であるかについて考察している。

そして、「利用許諾については、自分の氏名や肖像を他人が利用することに同意するということであり、それをすることにより自身の活動の制約の度合いは譲渡の場合よりも弱いですから、許容することができると思います」との見解を述べた上で、パブリシティ権の利用許諾を受けた者による損害賠償請求を認める裁判例があること、及び、利用許諾を受けた者による差止請求を否定した裁判例があることを紹介している。これらの点は、実務においてパブリシティ権に基づく権利行使の可否を検討する上で重要である。

このように、本稿は、パブリシティ権について分かり易く説明するとともに、現在も残されている課題について考察している点において、実務的な観点から示唆に富む論考である。

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濱野敏彦(はまの・としひこ)
2002年東京大学工学部卒業。同年弁理士試験合格。2004年東京大学大学院新領域創成科学研究科修了。2007年早稲田大学法科大学院法務研究科修了。2008年弁護士登録(第二東京弁護士会)。2009年弁理士登録。2011-2013年新日鐵住金株式会社知的財産部知的財産法務室出向。主な著書として、『AI・データ関連契約の実務』(共編著、中央経済社、2020年)、『個人情報保護法制大全』(共著、商事法務、2020年)、『秘密保持契約の実務〈第2版〉』(共編著、中央経済社、2019年)、『知的財産法概説』(共著、弘文堂、2013年)、『クラウド時代の法律実務』(共著、商事法務、2011年)、『解説 改正著作権法』(共著、弘文堂、2010年)等。