港湾都市に対する集中的な インフラ投資の帰結

海外論文サーベイ(経済セミナー)| 2021.05.21
 雑誌『経済セミナー』の "海外論文Survey" からの転載です.

(奇数月下旬更新予定)

Balboni, C. A. (2019) “In Harm`s Way? Infrastructure Investments and the Persistence of Coastal Cities,” Working Paper.

菊池信之介

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はじめに

歴史的に、経済発展は沿岸部の港湾都市に集中してきた1)。内陸都市に対する港湾都市の優位性は、大航海時代以降の西欧の躍進に貿易が果たした役割や2)、20 世紀後半からの中国沿海部における工業化と産業集積にみられるように明らかだろう。そして、その勢いは衰えるばかりか加速している。1990 年時点で、地球人口のうち $23\%$ にあたる 12 億人が海岸から 100km 圏内に居住しており、その人口密度は 2050 年には $50\%$ まで上昇すると予測されている3)。それに応じて交通インフラ投資も沿岸部に集中していて、海抜 5m 未満の地域に年間 9000 億米ドル (約 100 兆円) もの投資が行われている4)

しかしながら、港湾都市には海に近いがゆえの災害リスクが伴う。特に、昨今の地球温暖化による急速な海面上昇は、それらの港湾都市の優位性を揺るがしかねないと危惧されている。実際、今後 100 年で、毎年洪水のリスクにさらされる人口は少なくとも 5 倍に5)、主要な港湾都市における経済被害は約 10 倍に跳ね上がると試算されている6)

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脚注   [ + ]

1. 例外として、戦乱が多い時代や地域では、内陸交通の便を整備しつつ、内陸都市の発展がみられることもある。唐の長安などが好例。しかし唐末期以降に長安は没落し、隋代に大運河が整備されていた開封が、唐に続く北宋の首都となったことからも、水運の重要性がみてとれるだろう。
2. Acemoglu, D., Johnson, S. and Robinson, J. (2005) “The Rise of Europe: Atlantic Trade, Institutional Change, and Economic Growth,” American Economic Review, 95 (3): 546-579.
3. Small, C. and Nicholls, R. J. (2003) “A Global Analysisof Human Settlement in Coastal Zones,” Journal of Coastal Research, 19 (3): 584-599.
4. Oxford Economics (2015) “Assessing the Global Transport Infrastructure Market: Outlook to 2025,” PwC.
5. Adger, W. N., Hughes, T. P., Folke, C., Carpenter, S. R. and Rockström, J. (2005) “Social-Ecological Resilience to Coastal Disasters,” Science, 309 (5737): 1036-1039.
6. Hallegatte, S., Green, C., Nicholls, R. J. and Corfee-Morlot, J. (2013) “Future Flood Losses in Major Coastal Cities,” Nature Climate Change, 3 (9): 802-806.