(第35回)遺族とは、配偶者とは─被害者学とセクシャリティ問題の交差点(矢野恵美)

私の心に残る裁判例| 2021.04.06
より速く、より深く、より広く…生きた法である“判例”を届ける法律情報誌「判例時報」。過去に掲載された裁判例の中から、各分野の法律専門家が綴る“心に残る判決”についてのエッセイを連載。
判例時報社提供】

(毎月1回掲載予定)

「同性パートナーにも犯罪被害の遺族給付金を」訴訟

同性の犯罪被害者と交際し共同生活を営む関係にあった者が、犯罪被害者等給付金の支給等による犯罪被害者等の支援に関する法律5条1項1号にいう「婚姻の届出をしていないが、事実上婚姻関係と同様の事情にあつた者」に当たらないとされた事例

名古屋地方裁判所令和2年6月4日判決
【判例時報2465=2466合併号13頁掲載】

本判決は、私にとって「被害者学」と「セクシャリティ」という自分がかかわる二つの専門分野が交差した内容であり、非常に心に残っている。

私の専門は刑事法で、被害者学も含めて研究をしている。被害者学研究については、学生時代から学んではいたものの、留学先のスウェーデンで、当時設立されたばかりの「犯罪被害者庁」について知ったことが大きく影響している。帰国後は2003年から各地の少年院で被収容少年に被害者に関する講義を行っている(三田評論2009年10月号等参照ください)。一方、セクシャリティについては教育の場で多くかかわってきた。職場である琉球大学法科大学院は、法科大学院として日本で唯一、「性の多様性の尊重」を宣言し、アドミッション・ポリシーに掲げるに至っている。教育の場で考えさせられることが多くあり、現在は北欧におけるセクシャリティに関する研究をさせていただいている。

この判決では、20年以上連れ添った同性パートナーの一方(Aさん)が殺害され、残されたもう一方のパートナー(Bさん)が犯罪被害者給付金の支給を愛知県公安委員会に申請したところ、却下された。その裁定を取り消すことを求めたものである。

犯罪被害者給付金被支給者の第一順位は配偶者であるが、これには「婚姻の届出をしていないが、事実上の婚姻関係と同様の事情にあった人を含む。」(「犯罪被害者等給付金の支給等による犯罪被害者等の支援に関する法律(1980年法律第36号)」以下「犯給法」第5条第1項第1号)と書かれており、このいわゆる「事実婚」に同性パートナーが含まれるかが争点の一つとなった。BさんはAさんの母親の介護のために仕事をやめ、母親の最期も看取っている。

本判決で扱われている犯罪被害者給付金制度ができたのは1980年である。本法成立のきっかけは、1967年に一人息子さんを通り魔に殺害された市瀬朝一さんという方が、日本では被害者や被害者遺族であっても、犯人が逮捕されたことも、ひどい時には裁判があったことすら知らされない等の当時の状況にショックを受け、全国の殺人事件の被害者遺族の方を訪ね歩き、日本初の犯罪被害者の遺族の会を結成されたことに遡る。

制度成立の理由の一つは、被害者(と遺族)には加害者に対して損害賠償金を請求することができるものの、加害者に資力がなければ被害者は何の補償を受けることもできず、そして実際に多くの加害者は資力がないので、被害者(と遺族)にとってあまりに理不尽であるということにあった。成立当時は同じ市民としてこのような理不尽な目にあっている被害者(と遺族)に対する社会共助としての「お見舞金」という性質であったため、給付金の金額が非常に低かった。その後、地下鉄サリン事件等を経て、少しずつ被害者給付金の額はあがってはきたものの、それでも2019年度の給付金の総額は約10億3000万円、遺族給付金の平均裁定額は約614万円である(「令和元年度中における犯罪被害給付制度の運用状況について」より)。ちなみに日本では子ども1人を4年制大学に行かせれば、国立大学でも平均214万円かかる。

スウェーデンでは1994年に犯罪被害者のことだけを扱う「犯罪被害者庁」ができた。当時人口が約900万人しかいなかったスウェーデンにおいて、この機関では約60人の法律家が被害者のために働いていた。日本の犯給法 にあたる被害補償法(Skadeståndslag 1972年法律第207号)は1972年にできている(現在は犯罪被害法Brottsskadelag 2014年法律第322号)。犯罪被害者庁の大きな役割は、加害者が損害賠償金を支払えない場合に、独自に賠償金額を算定し(犯罪被害補償金)、国がそれを立て替え、被害者庁が加害者と面談して、分割を含めた返済計画を立てるということである。被害者は加害者と交渉するストレスがなく、本来、犯罪被害については加害者が支払うべきという考えも徹底されている。2020年に人口1000万人となったスウェーデンが犯罪被害補償金として支出した総額は約36億3150万円(1クローナ15円で算出)である(犯罪被害者庁『2020年活動報告』10頁より)。しかもスウェーデンは移民も含め自国民は高等教育まですべて無償で、被害者も加害者も同じ市民なのだから、同じ権利が保障されるべきだという明確な考えがあり、捜査の最初の段階から被害者にも国選弁護人が付くなど、被害者をめぐる様々な制度が用意されている。

日本における被害者に関する法制度は、ここ20年で大きく進歩したとは言え、被害者国選弁護人はようやく議論が本格化したところであり、世界的に見ると、決して進んでいるとは言えない現状がある。

一方、セクシャリティについてであるが、ここでは本件で議論となっている同性のパートナー関係についてのみ取り上げたい。現在のところ、日本では、戸籍上の性別が同性でなければ婚姻届が受理されず、婚姻できない。法改正が叫ばれているが、進んでいない。このような国の状況に対して、2015年の渋谷区・世田谷区を皮切りに、自治体がパートナーシップ制度を制定、現在約100の自治体に広がっており、日本の人口の4割弱はパートナーシップ制度のある自治体に住んでいる。しかし、婚姻はあくまでも法律によるものなので、自治体の制度にはほとんど法的効果はない。それでも自分が住む自治体が自分達の存在を認めてくれることは大きな意義をもつと言われている。2016年以来、G7の中でも、同性カップルに関する法的な制度をもたない国は日本だけであり、婚姻平等(性別で区別を設けない婚姻法)に関しては、2019年2月14日に全国で日本初の同性婚についての集団訴訟(「結婚の自由をすべての人に」訴訟、以下「マリフォー訴訟」)が起きている(「MARRIAGE FOR ALL JAPAN-結婚の自由をすべての人に」ウェブサイト)。

一方スウェーデンにおいては同棲法と婚姻法という二つの制度があるが、現在はいずれも性別を問わず、婚姻届けにあたるものには配偶者1、配偶者2といった記載方法が取られている。1972年デンマークに続いて世界で2番目に同性パートナーの登録パートナー制度ができたが、これが2003年に性別を問わない同棲法に統一され、婚姻法は2010年に性別を問わない「婚姻平等」が達成されている。

幼い頃からセクシャル・マイノリティの人が身近にいる環境で育ってきたので、この世の中にセクシャル・マジョリティしかいないと思ったことは一度もないし、差別もしないと考えていた。しかし、教員になって、数多くの学生からカミングアウトを受けるようになって初めて、この問題は人権の問題だと気付かされた。同性カップルの点で言えば、法科大学院の場合、例えば司法試験に受かった際に、交際相手がいれば、結婚するかどうかという話題が合格者から出ることがある。ところが、同性カップルの場合にはこの話題は絶対に出ない。なぜなら日本では現在のところ、同性カップルは婚姻ができないからだ。同じように学費を払い、同じように努力をして、同じ司法試験に合格したにもかかわらず、性的指向が少数者に属しているだけで、なぜこうも違う扱いを受けるのか。これが差別でなくて何であろうかと強く思うようになった。婚姻しなくてはいけないわけでは決してない。しかし結婚しないのと、結婚できないのは全く違う。

残念ながら、本判決では、「同性間の共同生活関係(交際している者が共同生活を営む関係)が婚姻関係と同視し得るものであるとの社会通念が形成されていたということはできないという事実関係の下においては、同性の犯罪被害者と交際し共同生活を営む関係にあった者が、同法5条1項1号にいう「婚姻の届出をしていないが、事実上婚姻関係と同様の事情にあった者」に当たると認めることはできない。」として、同性カップルは事実婚とは認められなかった。しかし、マリフォー訴訟の最初の判決となった2021年3月17日の札幌地方裁判所判決では、「異性愛者に対しては婚姻という制度を利用する機会を提供しているにもかかわらず、 同性愛者に対しては、婚姻によって生じる法的効果の一部ですらもこれを享受する法的手段を提供しないとしていることは、立法府が広範な立法裁量を有することを前提としてもその裁量権の範囲を超えたものであるといわざるを得ず、本件区別取扱いは、その限度で合理的根拠を欠く差別取扱いに当たると解さざるを得ない。したがって、本件規定は、上記の限度で憲法14条1項に違反すると認めるのが相当である。」とした。

また、2021年3月19日の最高裁判例では、「同性のカップルであっても、その実態に応じて、一定の法的保護を与える必要性は高いということができる(婚姻届を提出することができるのに自らの意思により提出していない事実婚の場合と比べて、法律上婚姻届を提出したくても法律上 それができない同性婚の場合に、およそ一切の法的保護を否定することについて合理的な理由は見いだし難い。)。」「同性のカップルであっても、 その実態を見て内縁関係と同視できる生活関係にあると認められるものについては、それぞれに内縁関係に準じた法的保護に値する利益が認められ、不法行為法上の保護を受け得ると解するのが相当である」とした2019年9月18日の東京高裁判決の内容が確定した。

上記判決で札幌地裁が述べているように、「圧倒的多数派である異性愛者の理解または許容がなければ、同性愛者のカップルが、結婚の法的利益を受けられないというのは、あまりにも同性愛者を保護していない状態だといわざるを得ない。否定的な意見は限定的に考慮すべき」である。そもそも人権とは多数決で決まるものではなく、少数者の人権を守ることこそが司法の最後の砦たる裁判所の使命だ。また、最近の世論調査では、同性婚について「認めるべきだ」が65%に上り、「認めるべきではない」22%を大きく上回っている(「同性婚、法律で「認めるべき」65% 朝日新聞世論調査」朝日新聞Digital2021年3月22日)。

比較法研究をしていると、むしろ「なぜ日本でだけ実現できないのか。」と思うことが増えてきているように思う。被害者学もセクシャリティの問題も 法曹教育の中にもほとんど組み込まれていない。しかし、今後はいよいよ日本でも新しい風が吹くのではないだろうか。一連の裁判例を見てそう感じている。


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矢野恵美(やの・えみ)
琉球大学法科大学院教授・同ハラスメント相談支援センター長
東北大学国際高等融合領域研究所助教、琉球大学法科大学院准教授等を経て現職。
著書に「スウェーデン刑法における性犯罪規定の変遷」(樋口亮介・深町晋也編著『性犯罪規定の比較法研究』分担執筆、成文堂、2020年)、「ノルウェーにおける性の多様性の尊重から」(「ジェンダー法研究」第7号、2020年)、「ジェンダーの視点から見た刑務所―男性刑務官の執務環境とセクシャル・マイノリティ受刑者の処遇」(山元一他編『憲法の普遍性と歴史性―辻村みよ子先生古稀記念論集』分担執筆、日本評論社、2019年)、「日本の女性刑務所が抱える問題について考える」(「慶應法学」第37号、2017年)、「受刑者を親にもつ子どもについて考える」(「刑政」2017年1号)、「スウェーデンにおける国による被害者対策と『女性に対する暴力』への対策」(「被害者学研究」第22号、2012年)等。