(第30回)地方公共団体の課税自主権の規律(伊藤剛志)

弁護士が推す! 実務に役立つ研究論文| 2021.02.24
企業法務、ファイナンス、事業再生、知的財産、危機管理、税務、通商、労働、IT……。さまざまな分野の最前線で活躍する気鋭の弁護士たちが贈る、法律実務家のための研究論文紹介。西村あさひ法律事務所の7名の弁護士が交代で担当します。

(毎月中旬更新予定)

神山弘行「憲法92条・94条と課税自主権:地方公共団体のインセンティブ構造」

日税研論集77号293頁(公益財団法人日本税務研究センター、2020年)より

昨年(令和2年・2020年)6月30日、ふるさと納税制度の対象自治体から除外された泉佐野市が、国による当該除外は違法であるとして争った訴訟について、最高裁判所の判断が示された1)

ふるさと納税は、個人住民税の納税者が地方公共団体に寄附をした場合、一定額を超える寄附金の額について、所得税の所得控除、個人住民税の税額控除が得られ、さらに個人住民税の税額控除に所定の上限額の範囲内で特例控除額が加算されるという制度である2)

納税者の視点からみると、一定の範囲では、地方公共団体への寄附金額に相当する金額分、所得税額・個人住民税額が少なくなるため、いわば、自己が負担することとなる所得税・個人住民税を原資として、他の地方公共団体へ寄附をすることができる。一方、ふるさと納税では、寄附を受けた地方公共団体が寄附者に対して返礼品を提供することが一般化している。2008年(平成20年)のふるさと納税制度の創設当時、地方公共団体が提供する返礼品について法令上の規制はなく、ふるさと納税制度が広まるにつれて、高額な返礼品や換金性の高い返礼品を提供する一部の地方公共団体が多額の寄附金を集める事態が生じていた。かかる事態を踏まえ、国は地方税法を改正し、ふるさと納税の対象となる地方公共団体を指定する制度を導入し、令和元年6月1日に施行した。

泉佐野市は、寄附金額に対する調達価額割合の高い返礼品や地場産品ではない返礼品、換金性の高い返礼品を提供するなどして積極的に多額の寄附金を集め、指定制度導入の直前には大手電子商取引サイトで使用可能なギフト券を追加交付するとして寄附金の募集をしていた。国は泉佐野市の指定制度施行前の寄附金の募集態様等を勘案して泉佐野市をふるさと納税の対象自治体に指定しなかった。冒頭の最高裁判所の判決は、当該不指定が違法であるとして泉佐野市が争った事件の上告審であるが、最高裁判所は結論として泉佐野市の請求を認めた。

泉佐野市の事件は、国内において、課税主体間の税収獲得競争ともいうべき状態3)があることを示唆している。租税に係る紛争は、納税者vs課税当局、即ち、租税を徴収する者と徴収される者という対立構造にて生じることが多く、国内において課税当局間、即ち、租税を徴収する者同士の関係や衝突が意識されることは、それほど多くはない。しかしながら、租税は公共サービスを提供するための資金を調達する目的で私人に課する金銭給付であり、公共サービスを提供する地方公共団体も租税を賦課・徴収する。地方公共団体間の租税を巡る競争、その上位・下位の課税主体4)との関係がどのように規律されており、また、どのように規律されるべきか、地方分権にも関係する興味深い問題である。

神山弘行・東京大学准教授の標記の論稿は、地方共団体間の水平的外部性、国・地方公共団体間の垂直的外部性の双方の観点から、地方公共団体の課税自主権を考察する。

本論稿は、アメリカにおける連邦政府・州政府の課税権に関する議論等を紹介し、課税主体におけるインセンティブ構造を検討する。例えば、連邦政府及び州政府との垂直的な関係では、州所得税・地方所得税の負担額を連邦所得税の所得計算上、控除できる仕組みとなっているため、州政府は、小売税等の控除対象とならない租税より控除対象となる州所得税・地方所得税の税率を上げるインセンティブが与えられていること、より累進的な所得税制を選好するインセンティブが与えられていることなどが説明されている。また、課税主体間の水平的な関係では、州政府間での税率引下げ競争のようなインセンティブのほか、非居住者に租税負担を転嫁する「租税輸出」により過剰な課税をするインセンティブが与えられ、外部性を生じさせることが指摘されている。特に、租税の法的統制との関係では、租税輸出が生じる税目は、賦課する地方公共団体の住民は租税負担を負うことなく税収による財政支出増加という便益を享受することができるため、過剰税率が設定されるだけではなく、根拠となる税条例の法的構成についても十分な検討が加えられない危険性が高まる旨を指摘する。近年、わが国でも地方公共団体が設ける法定外地方税について同様の問題が生じてはいないか、疑問なしとは言えないように思われる。

続けて、本論稿は、日本国憲法下における課税自主権に関する学説や裁判例を検討し、水平的外部性や垂直的外部性の問題に対処するために、国が地方税法等の法律の変更を通じて地方公共団体のインセンティブ構造を変化させることは、原則として認められていると分析し、わが国において、地方公共団体のインセンティブに影響を与える規制等の直接的手法と誘導による間接的手法を整理し、地方共団体の課税自主権について、地方公共団体のインセンティブという観点から、現行法の新たな整理と理解を試みている。

地方自治の尊重という理念は耳ざわりの良いものかも知れないが、それにより生じる地方公共団体の利己的な行動について、如何なる規律や規制があるべきか、悩ましい問題である。

本論考を読むには
「日税研論集」77号購入頁へ


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脚注   [ + ]

1. 最三小判令和2年6月30日民集74巻4号800頁
裁判所Webサイト
2. 総務省「ふるさと納税の仕組み」

3. 厳密にいえば、ふるさと納税制度の下では、納税者は選んだ地方公共団体に「寄附」をしているのであり、租税を納めているわけではない。しかし、寄附をした納税者の納付する所得税・個人住民税が減少され、その分、寄附を受けた地方公共団体の収入が増加している点に鑑みれば、納税者が納付するはずであった所得税・個人住民税が、国及び(納税者がその住民である)地方公共団体から寄附先の地方公共団体へと移転しているようなものと言うことは可能であろう。
4. わが国では、国レベル、都道府県レベル、市町村(及び特別区)レベルの課税があり、地方公共団体間の水平的関係のほか、国-都道府県-市町村(及び特別区)という垂直的関係も生じる。

伊藤剛志(いとう・つよし)
1999年東京大学法学部第一類卒業。2000年西村総合法律事務所(現:西村あさひ法律事務所)入所。2007年ニューヨーク大学ロースクール卒業(LL.M.)。2016年より2019年まで東京大学大学院法学政治学研究科・客員准教授。主な業務分野は、税務、資産運用・金融取引。主な著書として、『BEPSとグローバル経済活動』(共編著、有斐閣、2017年)、『ファイナンス法大全(上)・(下)〔全訂版〕』(共著、商事法務、2017年)等。