(第6回)鏡を磨く

人文的な数学の話(井ノ口順一)| 2021.03.16
文学を読んでいても,人文・社会系の本を読んでいても,ついつい数学の目で見てしまい,いつの間にか話が数学になってしまいます.意外や意外,数学の話題が溢れているのです.数学者になってしまったばかりに気になってしまうことを日常生活のひとこまや読書を通じてご紹介していきます.ときどきはディープな話題に迷い込むかもしれません.

山本兼一作『夢をまことに』(文春文庫,2017) をご存知でしょうか.主人公は九代目国友藤兵衛 (1778–1840) です.国友一貫斎・眠龍ともよばれています.文政 3 年 (1820) に尾張犬山藩の藩主,成瀬隼人正正壽の江戸宅でオランダから輸入したテレスコッフ (反射望遠鏡) を見せられた一貫斎は,長い試行錯誤を経て天保 3 年 (1832) にオランダ経由のものを凌駕する性能のテレスコッフを作り上げます.

伊能忠敬の大日本沿海輿地全図の完成が文政 4 年,シーボルト事件は文政 11 年という時代です.成瀬邸では既製品の採寸をしたのですが,反射望遠鏡光学の知識はまだ日本にまだ入っていない時代ですからリバースエンジニアリングというよりも,未知の工業製品を解読するような情況だったのでしょう.この物語では一貫斎がテレスコッフを作り出す様を描いています.一貫斎は太陽観測も行っていました (文献[1]参照).

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井ノ口順一(いのぐち・じゅんいち)
1967 年千葉県銚子市生まれ.東京都立大学大学院理学研究科博士課程数学専攻単位取得退学.現在,筑波大学数学域教授.
教育学修士(数学教育), 博士(理学).専門は可積分幾何・差分幾何.
著書に『リッカチのひ・み・つ---解ける微分方程式の理由を探る』(日本評論社, 2010),『どこにでも居る幾何---アサガオから宇宙まで』(日本評論社, 2010),『曲線とソリトン』(朝倉書店, 2010),『常微分方程式NBS』(日本評論社,2015),『初学者のための偏微分∂を学ぶ』(現代数学社,2019)等.
日本カウンセリング・アカデミー修了, 星空案内人(準案内人), 日本野鳥の会会員.