(第28回)ギグエコノミー、フリーランスの契約規制(松井博昭)

弁護士が推す! 実務に役立つ研究論文| 2020.12.22
企業法務、ファイナンス、事業再生、知的財産、危機管理、税務、通商、労働、IT……。さまざまな分野の最前線で活躍する気鋭の弁護士たちが贈る、法律実務家のための研究論文紹介。西村あさひ法律事務所、AI-EI法律事務所の弁護士が交代で担当します。

(毎月中旬更新予定)

橋本陽子「フリーランスの契約規制-労働法、民法および経済法による保護と課題」

法律時報92巻12号(2020年11月号)68頁以下

ギグエコノミー、フリーランスに関する法律相談に対応する場合には、労働法に限らず、広く、民法、経済法といった切り口からの検討が必要となる。

橋本陽子「フリーランスの契約規制-労働法、民法および経済法による保護と課題」は、労働法、経済法、民法による契約規制といった角度から検討を重ねており、実務上も参考になると思われた論稿である。

法律時報2020年11月号(定価:税込 1,925円)

まず、労働法について、本稿は、労働法令の適用対象となる「労働者」について、契約の名称ではなく、実態から客観的に判断されるべきであるとし、労働基準法上の労働者性と労働組合法上の労働者性を切り分けて説明する。

労働基準法の労働者性については、労働省労働基準法研究報告「労働基準法の『労働者』の判断基準について」(昭和60年12月19日)【→PDF】が、具体的な判断要素(使用従属性)につき、①業務諾否の自由の有無、②業務遂行方法における具体的な指揮監督の有無、③時間的・場所的拘束性、④労務提供の代替性、⑤報酬の労務対償性、⑥事業者性の有無、⑦専属性、⑧税法・社会保険法上の取扱い等の点に整理しており、これらにより総合判断されることを紹介する。

また、労働組合法の労働者性については、労使関係法研究会報告「労働組合法上の労働者性の判断基準について」(平成23年7月25日)【→PDF】が、具体的な判断要素につき、(i)事業組織への組み入れ、(ii)契約内容の一方的・定型的決定、(iii)報酬の労務対価性、(iv)業務の依頼に応ずべき関係、(v)広い意味での指揮監督下の労務提供、一定の場所的時間的拘束、(vi)顕著な事業者性等の点に整理していると紹介する。この他、本稿は、労働契約という性質決定を経ない一定の契約法理の適用や使用者責任の拡張、(自営業者に対する)家内労働法、労災保険の特別加入制度についても紹介している。

次に、経済法について、本稿は、取引上優越した地位にある事業者が、相手方に対して、不当に不利益な取引条件を設定または変更し、かかる取引条件を実施することが、優越的地位の濫用として禁止される旨の独占禁止法の規制(2条9項5号)について解説し、公正取引委員会のガイドライン【→PDF】について触れる。

また、所定の要件を満たす場合に適用される下請法の規制1)について、取引条件の明確化のために法定事項を記載した書面の交付を義務付けていること(3条)、下請事業者の責に帰すべき事由のない納品拒否及び下請代金の減額等の不当な行為に対する規制を置いていること(4条)を解説し、所定の要件を満たす場合に独占禁止法の適用が除外される中小企業等協同組合法に基づく5種類の組合や団体協約について解説する。

さらに、民法による契約規制について、本稿は、裁判例上の一方当事者からの解約に対する他方当事者への保護に関して、継続的契約関係の解消に合理的な事由ないし「やむを得ない事由」等の正当事由が必要であるとするもの(継続的契約関係〔正当事由〕型)、正当事由は必要とされないが、解消には相当程度の予告期間を設けなければならないとして、予告期間に相当する損失補償を認めるべきとするもの(継続的契約〔予告期間〕型)が見られるとし、いずれの類型についても、継続的契約関係の成立は容易には認められず、適用事例が少ない旨を指摘する。

筆者が、以上の各法分野における規制の概要に初めて触れた際、それぞれの分野では判断基準が確立し、裁判例や先行事例が存在するものの、規制相互間に重複や抜け穴があり、必ずしも、全体として統一感や整合性の取れた規制となっていないのではないか、という印象を受けた。

この点、本稿も、フリーランスに対する規制は「重層的であるが断片的な保護」に留まると指摘し、その上で、現状に対する課題として、(a)契約条件の明確化、(b)労働者性の再検討、(c)「継続的契約(予告期間)型」の発展の可能性といった点を指摘する。

(a) 契約条件の明確化について、契約条件に関するトラブルを防止するため、在宅ワークガイドライン【→PDF】や下請法における契約条件の明確化をすべてのフリーランスの契約に義務付けるべきとの指摘について紹介している。

(b) 労働者性の再検討について、上記の民法や経済法に、弱者保護という社会政策的な機能を過度に期待することはできないとし、労働基準法、労働組合法の労働者概念を再検討する必要があるとし、他方で、従属性が認められず「労働者」とは言えない類型については民法(不法行為)や経済法の規定が妥当するとしている。

(c) 「継続的契約(予告期間)型」の発展の可能性について、業務委託の継続について期待権を保護すべき事例があるとし、今後の裁判例の蓄積に期待したいとしている。

本稿は、以上のように、ギグエコノミー、フリーランスに関して適用される可能性のある法規制を概観した上で、今後の課題についても検討を加えており、実務上も参考になるように思われた。

ところで、ギグエコノミー、フリーランスに関しては、プラットフォームビジネスという(ほぼ同一の)新興のビジネスを対象に、世界各国で、しかも同時並行で、議論、訴訟、法改正がなされているところであり、諸外国の状況を確認することも非常に興味深い。Uberについては、各国の議論、裁判例、法改正を取り纏めた記事等もあり参考になる2)

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脚注   [ + ]


松井博昭(まつい・ひろあき)
AI-EI法律事務所 パートナー 弁護士(日本・NY州)。信州大学特任准教授、日本労働法学会員、日中法律家交流協会理事。早稲田大学、ペンシルベニア大学ロースクール 卒業。
『和文・英文対照モデル就業規則 第3版』(中央経済社、2019年)、『アジア進出・撤退の労務』(中央経済社、2017年)の編著者、『企業労働法実務相談』(商事法務、2019年)、『働き方改革とこれからの時代の労働法』(商事法務、2018年)の共著者を担当。