『ローソンの人財育成 新世代・外国人労働者が輝く「働き方改革」』(著:有元 伸一 )

一冊散策| 2020.12.23
新刊を中心に,小社刊行の本を毎月いくつか紹介します.

はじめに

私は、大学を卒業してから現在に至るまで約 25 年間、コンビニエンス業界で働いています。入社後、すぐに店舗へ配属となり、店長として約 5 年間働きました。その後、店舗指導員を経てローソンへ転職したのですが、その時の長い店舗経験が今では貴重な財産になっています。

当時は、コンビニの店員といえば金髪は当たり前、レジの後ろにあるカウンターに寄り掛かって挨拶はしない……なんてケースが普通でした。私が着任した店舗でもそのような人が多く、ちょっと厳しく指導したら翌日に私のロッカーが殴られて凹んでいたこともありました。このような環境下で店員の想いを 1 つにしていくことは、大学を卒業したばかりの新米社会人の私には何よりも難しい仕事でした。大学で一生懸命に学んだ組織論が簡単には通用しないのです。

そういった状況ではありましたが、私がこだわって取り組んだことがあります。それは、従業員とのコミュニケーションの頻度を上げることです。誰もがコミュニケーションの大切さは理解しているでしょうが、そのやり方は千差万別であり、鉄板の方程式はありません。ですので、私の場合は内容に関してはともかく、個人個人への会話の回数をチェック表で管理しながら、その頻度を増やすことに注力しました。

この管理表を最初に確認した時、私は自分の至らなさにすぐに気付きました。というのは、私のコミュニケーションの特徴として、自分と相性の良い人や仕事を前向きに取り組んでくれる人だけに声を多く掛ける傾向があったのです。つまり、大切な従業員への関心に大きな偏差があったのです。

そこからは、コミュニケーションの頻度に関して目標回数を明確に決めて個人差が出ないように行動をしていきました。もちろん、私が会えない時間帯のアルバイトさんもいるので、その人にはシフトの終わりを見計らって店舗に電話をし、一言声を掛けるなど工夫をしていきました。1 日 2 回だけの会話だと、「おはようございます」、「お疲れ様でした」といった定例の挨拶だけであったのが、それが最低 5 回も声を掛けるとなると、不思議なことに常に無意識の中で彼らを観察するようになり、会話の内容が変わっていきました。

例えば、彼らの浮かない表情に気付いた時は、少しでも元気が出るように激励の言葉を掛け、彼らの素晴らしい接客を見掛けたら即座に褒めて、感謝の言葉を伝えるようになりました。最初は関心度を定量化し、目標を管理していくといった形式的な行動ではありましたが、これを繰り返すうちに、自然と彼らに対して真の関心を持つようになっていきました。そして、彼らに対する心の置き方が変わったことで、その想いが自然に彼らに伝わるようになっていきました。「従業員に愛情を持て」というのは、正直、家族でもない他人に対して難しいかもしれませんが、私の経験から言わせてもらうならば、「従業員に無関心にならない」ことなら誰にでもできます。

この本のタイトルを見て少し違和感を持たれた方もいるかもしれませんが、ローソンでは「人材」を「人財」と表記します。その理由はローソンのお店で働くオーナーさん、アルバイトさん、あるいは商品を届けて頂けるドライバーさんなど関わるすべての人たちはかけがえのない大切な存在であるという想いが根底にあるからです。「材料」としての「材」ではなく、「財産」以上の存在であるということを表現するために「財」を使っているのです (この考え方に従い、本書では基本的に「人財」の表記を用いています)。

現在、技術革新が目まぐるしく進歩し、デジタル化が激しく進んでいます。このような効率化がともすると従業員に対するコミュニケーションの同質化を生み出し、貴重な「人財」である彼らとの関係において、本当に大切なものが失われる可能性があると懸念しています。

この本では、前半で「働き方改革」に関する内容と実態について触れ、併せて世代ごとの仕事に対する価値観の変化も共有していきます。そして、後半にはその変化に対してローソンが試行錯誤しながらも実際に取り組んできたことについて紹介していきたいと思います。

目次

  • はじめに
  • 第1章 「働き方改革」の現状
    • 1−1 「働き方改革」とは
    • 1−2 義務化された企業の取組み
    • 1−3 日本人の働き方は効率的と言えるのか
    • 1−4 リクルート社の取組み
    • 1−5 アルバイトの「働き方改革」
  • 第2章 「旧世代」から「新世代」へ
    • 2−1 「旧世代」とは
    • 2−2 「新世代」とは
    • 2−3 「新世代」の特性(1)「スマホ・ネイティブ」
    • 2−4 「新世代」の特性(2)「ギグ・エコノミー」
    • 2−5 「新世代」の特性(3)「意味報酬」
  • 第3章 日本のアルバイト市場
    • 3−1 非正規雇用者の状況
    • 3−2 ローソンのアルバイト状況
    • 3−3 働きたいアルバイトブランド
  • 第4章 ローソンのアルバイト定着に向けた取組み
    • 4−1 初期研修ツール「はじろー」
    • 4−2 コミュニケーションアプリ「ろーちゃん」
    • 4−3 「ファンタジスタ」制度の概要
    • 4−4 自店の「ファンタジスタ」からマチの「ファンタジスタ」へ
    • 4−5 「ファンタジスタ」のシンボル
    • 4−6 オーナーとファンタジスタの声
  • 第5章 ローソンスタッフ社の取組み
    • 5−1 外国人から教わったこと
    • 5−2 会社設立の背景・目的
    • 5−3 コールセンター事業
    • 5−4 初期研修の代行事業
    • 5−5 外国人向け課外活動
    • 5−6 海外人財の研修プログラム
    • 5−7 「新世代」である海外の若者から学んだこと
  • おわりに

書誌情報など