『子ども虐待は、なくせる─当事者の声で変えていこう』(著:今一生)

一冊散策| 2020.11.19
新刊を中心に,小社刊行の本を毎月いくつか紹介します.

はじめに~虐待防止策は、30年間も失敗続き(抜粋)

親が子どもを殺す「虐待死」の事件が、新聞やテレビに報じられることが増えました。
虐待を見たら役所に通告する義務が、国民にあります。しかし、自宅周辺で子ども虐待が疑われるシーンに気づいても、報道や本で虐待の深刻さを思い知ることがあっても、自分がどう動けばいいのかにとまどい、何もできない人は大勢いるはずです。

この本は、虐待をめぐる現実に胸を痛め、「虐待をなくすためにできることがあるなら自分も動きたい」という方へ、公式統計や取材に基づく虐待の現実と、これからの虐待防止策、新しい解決アクションを提供するものです。

私は1990年から臨床心理士や被虐待の経験者などを取材し、1997年に親に虐待された人から「親への手紙」を公募して100人分を収録した『日本一醜い親への手紙』という本を編集。続編や文庫版、復刻版も作り、累計30万部のベストセラーに育てたので、他の方も関連本を出版しやすくなり、「毒親」という言葉も一般に定着しました。

ここまで売れれば、社会に虐待の深刻さに関心を持つ人が増え、虐待防止策も洗練されていくはず…。でも、それは甘い期待にすぎませんでした。

全国の児童相談所に寄せられる虐待相談の件数は、調査初年の1990年から今日に至るまで一度も減らせず、増え続ける一方だったのです。30年という長い間、大人は何をしていたのでしょう。私は子どもたちに対して申し訳ない気持ちでいっぱいになりました。

そこで、2017年に新たに公募した『日本一醜い親への手紙 そんな親なら捨てちゃえば?』(dZERO)を出版。従来の虐待防止策の何が間違っていたかについて向き合うため、全国の虐待サバイバー(虐待されても必死に生き残ってきた人)や政治家と共に「子ども視点」から防止策を議論し、作り出すイベントの開催を始めました。

本書は、その活動の成果の一つです。

赤ペンと付箋を準備し、子どもの頃を思い出しながら読み進めてください。

目次

はじめに
虐待防止策は、30年間も失敗続き
『天気の子』が問いかけた子どもの不自由

第1章 子ども虐待に関する不都合な真実
失敗を認め、虐待防止策を作り直そう
児童相談所は、虐待防止にとって機能不全
毎日1人の子どもが虐待で殺されている
虐待相談の8割は保護されず、施設不足で定員超過
親権制限は年間約400件、オレンジリボン運動はオワコン
保護されても、そのほんの一部だけが社会的養護へ
子どもは「保護の対象」から「権利の主体」へ
女児の命を軽んじた野田市の虐待死
「2027年までに里親委託率75%」を掲げたトンデモ有識者
施設の職員や里親などにも虐待される子ども
聞き分けの悪い子を殴り、立場を利用して性虐待
施設内での職員による虐待は、増加傾向
施設では、「子ども間」の暴力で裁判も
施設で育つと、大学進学率が一般の3分の1に激減
保証人を施設長にしても、就職や賃貸契約は困難

第2章 子ども虐待防止に立ちふさがる壁
子どもを一方的に「奴隷化」する親権
戦後も子どもを苦しめ続ける「家父長制」の文化
核家族が多数派の今日、民法は制度疲労
親権フリー&シェア制度へ動き出そう
「安全に育てられる権利」から、親子関係を見直す
親権こそが子ども虐待を動機づける
虐待の定義を、子ども視点で読み直す
経済的虐待・教育虐待・文化的虐待は保護されない
何が虐待かは、被害者こそが判断できる
親を殺さなければならなかった子どもたち

第3章 子どもの年齢別虐待防止策
虐待する親は、家の外の人との関係を拒む
出産前から「父子手帳」、出産祝いは授乳服を
1歳から「子育てシェア」、幼稚園からはCAPを
9歳から「親への手紙」を書く授業を
子どもが自分を救える起業教育も9歳から
大人よりのびしろの大きい子どもを信じて

第4章 あなたができる虐待防止策
大人に問われている、「子どもを守る」覚悟
アドボケイトの実現には、収益化が課題
有権者として、議員へ要望のメールを送ろう
山田太郎・議員の「子ども庁」構想
古い法律のままでは、子どもを守れない
あまりにも自然に行われている「子ども差別」
離婚後の共同親権は、子どもを苦しめる
子どもの安全は親どうしの関係とは別?
「親への手紙」の朗読会を、あなたの地元で
「子ども虐待防止策イベント」を開催しよう
映画『沈没家族』の上映会をやってみよう

第5章 虐待サバイバーのニーズをふまえた制度改革へ
障害者、LGBTに続く「当事者運動」の第三の波
虐待による医療費は、すべて親の負担へ
被虐待児が成人したら、「自立支援金」を
親の介護義務を子どもが放棄できる民法へ
自民党が憲法を変えれば、子どもはさらに苦しむ
虐待親への刑罰や損害賠償は、時効撤廃へ
子どもに負担をかけずに救える制度へ

第6章 子ども自身ができる虐待防止策
――親権から身を守るために
家出は、被虐待児にとって安全な自主避難策
家出人と漂流少女を区別できない記者たち
殺人事件の半数は、親族間で行われる
家出するなら、まず置き手紙を書くこと
被虐待児には、親の金の持ち逃げの合法化を
自分を守れない法律は、生き残るために破ろう
生き残るための学びは、学校の外に豊かにある
「この社会は子どもからどう見えるか」を問う子ども主義

参考資料一覧
あとがき――私といっしょに小さなアクションを

書誌情報など